第13話 邪竜、復活 ―最終決戦の幕開け
その朝――。
黒き大渓谷の方向から、大地を割るような咆哮が轟いた。
「……来たか」
王都の高楼からその光景を目にした人々は、声を失った。
赤黒い光柱が天へ伸び、空を血のように染めていく。
鳥は空を飛ぶことをやめ、獣たちは狂乱し、地面からは瘴気が噴き上がる。
――邪竜、完全復活。
その瞬間、封印は砕け散り、千年の眠りを経た巨体が現世に蘇った。
全長百メートルを超える黒き巨竜。
翼を広げれば空を覆い尽くし、眼窩には赤黒い炎が揺らめいていた。
ただ存在するだけで、王都全体が揺れ、石造りの家々が崩れ始める。
人々は叫び、泣き、祈りを口にした。
「助けてくれ……!」「もう終わりだ……!」
だが、ただ一人――群衆の中で立ち上がった英雄がいた。
「立ってろ。俺が必ず倒す」
ルーク。
その声は、震える人々の心を支える雷鳴のように響いた。
* * *
王都の大広間に緊急会議が招集された。
国王が蒼白な顔で叫ぶ。
「邪竜は渓谷を飛び立ち、こちらへ向かっている! このままでは王都が滅びる!」
兵士や冒険者たちの間に恐怖が広がる。
だがその中心で、ルークは静かに保存庫から光を引き出した。
――神代の剣。
――神代の魔導書。
――神代の鎧。
――終焉の槍グランディア。
――永劫の盾エテルナ。
五つの秘宝が並んだ瞬間、大広間が光に包まれる。
人々は目を覆い、やがて一斉に歓声を上げた。
「これが……!」「伝承の……!」
「英雄ルーク様! 世界を託すのはあなたしかいない!」
イリーナが膝をつき、誓いを捧げる。
「命に代えても、あなたの剣を支えます!」
リリィもまた両手を胸に当て、祈りの声を響かせた。
「神よ……この方に勝利を!」
ルークは頷き、槍と盾を手にした。
「行くぞ。俺が邪竜を討つ」
* * *
城門を出ると、空にはすでに邪竜の巨影が迫っていた。
翼の一振りで雲を裂き、咆哮だけで建物が粉砕される。
「グオオオオオオッ!!」
その声は地鳴りとなり、人々の心を凍りつかせる。
だがルークは一歩も退かず、前へ進んだ。
背後には騎士団、冒険者、そして怯えながらも立ち上がった人々。
「英雄に続け!」「ルーク様と共に!」
歓声が波となって広がる。
保存庫の奥から力が迸る。
槍が雷を纏い、盾が黄金に輝き、剣は空気を震わせる。
その姿は、もはや人ではなく伝説そのものだった。
「俺を無能と切り捨てた奴らよ……見ていろ」
小さく呟いた言葉は、かつての仲間を刺すように冷たかった。
その旧仲間たちは、城壁の上でただ震えて見守るしかなかった。
国からも、民からも、そして英雄からも切り捨てられた彼らは、もはや観客にすぎない。
「これが……ざまぁ、だ」
ルークは地を蹴った。
稲妻が走り、風が唸る。
英雄と邪竜の戦いが、ついに幕を開けた。
* * *
最初の衝突は、まさに天地を割るものだった。
邪竜が吐き出した炎が大地を呑み込み、城壁を焼き払う。
ルークは盾を構え、黄金の光で炎を受け止めた。
「エテルナ!」
炎はことごとく弾かれ、彼の背後に立つ人々を一人も傷つけることなく消え去る。
歓声が上がった。
「守られた!」「英雄だ!」
続いてルークは槍を掲げる。
「グランディア!」
稲妻が奔り、邪竜の巨翼を打ち砕いた。
黒い鱗が散り、竜が苦悶の咆哮を上げる。
だが、それでも邪竜は止まらない。
巨尾を振り下ろし、大地を裂く。
地面が揺れ、人々が悲鳴を上げる。
ルークは剣を抜き、跳躍した。
稲妻の刃が尾を両断し、轟音と共に邪竜の血が大地を染める。
「これが……俺の力だ!」
歓声と轟音が交錯する中、英雄と邪竜の決戦が始まった。




