【6】
まず向かったのは学校だった。和彦の支援もなく、実家と疎遠なので、お金を稼がないといけなかった。
「あたし、退学します」
少しかたい声で担任に言う。担任が何か言おうと口を開く前に、くるみは頭を下げる。
「ー今までありがとうございました」
と言うと、担任も折れたのか深く理由も聞かず、退学届の書類を出してくる。くるみはそれを受け取ると、その場で急いで書いたのだった。
「ーえ!! 妊娠!!」
大声を出したのは後輩のユイだった。今日は土曜日なので、親子連れが多かった。ジュースを飲んで笑っている子どもに優しい視線を向け、それからはユイに言う。
「そう。学校を中退したの」
「中退!! そんな!!」
思わずユイが立ち上がったのだった。周りの客が何事かと視線を向けてくる。さすがもにくるみも雰囲気に気づき、ピンクの唇に人さし指指を立てる。
「しっ。落ち着いて」
「ああ、すみません」
ユイはようやく周りに気づき、気まずそうに腰を下ろす.。くるみはそれに安心し、続けて言う。
「1人で、産んで育てようと思って」
「大丈夫なのですか?」
ユイがちらりと上目遣いで見つめてくる。本気で心配しているらしく、深刻な顔つきをしている。
ー優しい子だ。
誰も心配してくれないと思ったが、ユイだけはありがたい存在だった。この子と出会えて良かったと思いつつ、ジュースを口に含む。
「なんとかなるのかな?」
心配かけないように明るく言ったのだが、ユイの方はそうはいかなかった。
「だめですよ、強がっちゃ!!」
その言葉は胸に突き刺さり、思わず泣きそうになる。和彦なんか最低の人間だったのに、人間捨てたものじゃないなあと、鼻をすする。
「でも、決めたことだし」
はっきり言うと、ユイも真剣だと思ったのか、少し考えてから
「野菜あげましょうか?」
そう言ってきた。くるみは意味が分からず首を傾げる。
「どういうこと?」
「ちゃんと食べないと。うち、兼業農家なんですよ。1人で産み育てるなら、少しは協力させてください」
「…ありがとう」
くるみが少し俯く。涙が溢れそうだった。髪がロングで良かったと思いつつ、ユイに聞く。
「本当にいいの? 迷惑じゃ…」
「いいんですよ。後で持っていきます」
「…ありがとう。甘えていただくね」
2人はようやく少し笑むと穏やかな雰囲気に包まれたのだった。