【1】
「ーあたし、つけまつげしないの」
そう言ったのは、専門学校2年生の高木くるみだった。現在20歳、髪はロングで清楚な雰囲気だった。
「…は?」
聞き返したのは、1年後輩の後藤ユイだった。髪はショートで、色はピンク系。年齢は19歳だった。2人が居る場所はファミレスだった。お昼時間が過ぎているからか、客はまばらで、2人の話に注目している人たちは居なかった。エアコンが効いて涼しい中、くるみはドリンクについたストローを回す。爪にマニキュアはなく、ナチュラルメイクだった。氷がコロンと音をたてる。別に自慢するつもりはないのだが、
「セックスの時に取れると困るから」
と付け加えてしまった。しまったと少し思ったが、訂正はしなかった。つい口をついて出てしまったのだ。
「…。そうですか」
後輩の方が困ったふうに、頬を赤らめる。恋愛に乏しいのかもしれなかった。彼女に聞かせるのは悪いかなと思いつつも、恋愛話が出来るのは彼女しか居なかった。
「うん。SNSで知り合った彼なんだけどね」
スマホを取り出し、長い指で操作する。
「写真、見る?」
「いえ、いいです」
ユイが大きく手を振り、ジュースを口にする。どう反応していいのか迷っているらしかった。
「そっか。分かった」
くるみもそれ以上は積極的に言うつもりはなかった。2人の間に沈黙が流れる。
「…あの」
先に声を発したのはユイだった。暑そうな外をチラリとながめ、
「何? どうしたの?」
優しく聞き返す。ユイはまだ顔が真っ赤だった。
「あの…、その…大丈夫何ですか?」
心配しているようで、何回も乾いた唇を湿らせている。もしかしたらSNSで知り合ったというから、危ないイメージをもったのかもしれない。
「自己責任だから」
髪をかき分け、答える。スマホをバッグにしまい、フライドポテトを口に運ぶ。
「それは…」
この際だから、全部言ってしまいたかった。
「淋しいから、彼氏欲しいし」
本心だった。くるみは家族とも疎遠の仲で、親しい間からもユイぐらいしか居なかった。
「はあ…、淋しいからですか」
ユイにはいまいちピンとこないようだった。頬の赤みは引いたが、居心地が悪そうに体を揺らしている。
ー悪いこと言っちゃったかな。
くるみは反省し、グラスを持ち立ち上がる。
「ジュースもらいに行こう」
「はい」
ユイの素直さが今はありがたかった。