第四話 神奈川第一高校 対 新開高校 -2-
間違いなく力の差はあった。
だが、この後半始まった直後に試合が動いたのだ。
神奈川第一の先制。
1-0
会場のどよめきはもちろん
あのトップスピードでのゴールは
誰もが見た事ないだろう。
言うならば、
海外サッカーでよく観る映像だ。
焦る新開高校だが時間は過ぎていく。
ボールを持ちキックオフ。
新開はバックパスして後ろからまず立て直す。
パスを回しスペースを作る。
そこに走り込む新開のパターンを作り上げる。
「左から中にボール入れさせるなよ!
吉田と加藤2人で取り囲め!」
秀人は指を指しながら指示をする。
2人が動いた時スペースが空く。
するとやはり後ろからそのスペースに走ってくる新開。
新開の攻めの基本。
そこに吉田と加藤をギリギリまで引き寄せてから
パスを出した。
ドンピシャのパスだ。
「くそっ、、、!」
だが、足元でトラップしたのは新開ではなく
秀人だった。
言葉を発したのは新開だった、、、!
秀人はあえてそのスペースを空けて
そこにボールを出させるために
2人でボールを取りに行かせた。
そして、そのスペースに走り込む選手を後ろからピッタリマークして来た瞬間を狙っていた!
「悪いな。これも予想通りなんだ。しっかりと仕事をこなしてくれてありがとう」
そう言うと秀人はすぐに振り向き新開陣地へドリブルを開始した。
「くぅ、、、!待てっ!」
秀人を追いかける新開。
新開陣営も慌てて全員を戻す。
「戻れ!すぐにカウンターがくるぞ!
右左のサイドに注意しろ!」
すぐにカウンターに備えて戻る。
だが、秀人はパスを出さずにドリブルを続ける。
中央突破だ!
ハーフラインを超え新開陣地へ来たトコで
ナツを見た。
それに気づいた新開はすぐに指示を出した。
「9番にボール来るぞ!」
秀人はナツに出すかと思ったら違った。
出すフリをして
更にドリブルで進む!
神奈川第一はディフェンス陣も一気に上がってくる。
「出さないぞ!ボール取りに行け!」
中央の1人が秀人のボールを取りに来た!
ゴールからの距離はまだ遠い。
するとそこで左サイドを上がってきた
ディフェンスの吉田へパスをした。
「吉田持って行け。カバーは俺が入る」
そう言った秀人は
吉田のポジションに下りカバーに入った。
「はい!」
吉田はパスを受けドリブルを開始する。
吉田が上がってきた事で
新開のマークがズレてナツがフリーになった。
気付いた新開は
すぐにナツに付くように走った!
「ヨッシー!俺にパスだ!」
すると吉田はナツに向けて早めのパスを送った!
「ほらよ!」
吉田の鋭いパスはナツへ向かう。
「9番にボール行ったぞ!」
すぐにナツに駆け寄る新開!
ナツはそのボール来た瞬間、、、
スルーした、、、!
トラップせず股を通したのだ。
足元にボールを貰うと思っていた新開は
急なスルーに足が出ない。
そのボールはナツと新開のディフェンスを超え
キーパーとの間へ転がった。
「大丈夫だ!俺にまかせろ!!」
新開のキーパーは大きな声で新開のディフェンス陣に
声をかけた。
しかし、それは甘かった。
ナツがボールをスルーする事がわかっていた仁が
スルーする瞬間に
ディフェンスの裏に走っていたのだ。
裏に出たボールをそのままのスピードで受け取り
キャッチしようとしていた
キーパーはゴールからずいぶんと
前に出てきてしまっていた。
「あっ、、、!」
キーパーが咄嗟に出た言葉だった。
仁は斜め走りながらボールを受け取り、
キーパーを抜いて
無人のゴールにボールを転がした。
ゴール!!!
グラウンドは歓声に包まれていた。
「すげーぞ!今の!」
「早いな、あの7番」
「ナイスー!仁!さすが!
予測してくれてると思ってた!」
「いやいや、急過ぎるわ!」
これはナツと仁の中学コンビだから
出来たプレイかもしれない。
打ち合わせをしていたわけではない、
何かを感じたのだろう。
「おいおい嘘だろ?2-0ってこれ神奈川あんじゃね?」
見ていた人も
だんだんと神奈川第一がすごい事をしている事に
気付き始めていた。
下を向く新開高校に
ベンチのコーチも怒りをあらわにしていた。
「何やってんだ!お前ら!しっかりボール見て動け!
どんなけ練習してきたんだ!!」
そんな事はわかっている。
だがなんでだか取れない。
自分達の想像している上のプレイを
神奈川第一が行っているからだ。
新開のフォワード陣は焦っていた。
「点を取らないと、、、!」
しかし、
前に前にと気持ちが出過ぎてしまい
前半と違ってパスの精度が悪くなっている。
そこに神奈川第一のディフェンダーはすぐにパスカット。
ディフェンダー自身でドリブルをして
新開陣地に持って行く。
まさに全員サッカーだ!!
そうなると
必ず攻めの人数が神奈川第一の方が多くなる。
人数が多い分パスがどんどん回る。
そして、
そこの中心にいるのは
やはりナツだった。
一見すると心臓部である秀人に目が行きがちであるが
ナツは的確に相手が嫌になるような動きをして
マークを外しスペースを空ける。
自分もスペースに走る。
ずっと動いてボールをもらっていたのだ。
ボールを持ってすぐにボールを仲間にパスをする。
そのおかけで秀人はもちろん他のメンバーも
ボールをもらいパスを回し続けられる。
新開はナツに振り回されていたのだ。
「獅鷹ー!パース!」
手を挙げるナツに獅鷹が高めにボールを出す。
「ナツ、後ろ来てるぞー!」
獅鷹からの声に
ナツは新開ゴール側から相手が走ってきているのを
背中で感じた。
「周りの仲間にパス出すからそこ狙え!!」
新開はナツが仲間に出すと分かって
すぐに神奈川の選手にマークを付くように指示した。
「おっ、、、と!ならおっけぃ!」
ボソっと声に出し
飛んできたボールを胸でトラップ。
そこから強引に振り返ったのだ。
胸に来たボールをただ目の前に受け止めたわけではなく
自分の後ろ(背中側に)に行くように身体を逸らして受けたのだった。
相手は急にナツと目が合いびっくりした!
そこからの一歩は早かった!
踏み込みが違う!
何をしたわけでもなくスピードのみで
抜き去ったのだ。
コンマ1秒2秒で景色が違う。
ディフェンスはナツが仲間にボールを渡している映像が
目に映っているはずだった。
振り向かせるつもりがなかったからだ。
だが現実には自分の後ろを走っている。
抜き去られた後だった。
(いや、バカだろ、、、
自分の陣地から飛んできたボールを胸でトラップして
空中に浮いてる間に身体を俺ら側に向けるなんて、、、
ありえないだろ、、、)
新開のディフェンスは訳がわからん状態だった。
そしてボールを持った
トップスピードのナツは誰にも止められない!
早過ぎる!
あっという間にペナルティエリア内。
距離はまだ多少あった。
しかし、この距離から打った!
ゴールが見えたら打つ!!
迷いのないシュートだった。
ナツはそこらの高校生とは違う。
シュートの威力が桁違いだからだ。
距離があろうが
ボールはすごいスピードでゴールに向かい
キーパーから避けるようにゴール角すみに打ち込んだ!
「イェーイ!ナイスボールだぜ、獅鷹ー!」
ナツは神奈川陣地にいる獅鷹に声をかけ
獅鷹は手を挙げて答えた。
スコアは3-0
時間はまだ10分も経っていない。
まさに前半とは全く違うチームと戦っているようだった。
こうなるとは誰も思っていない。
それは新開も見にきている人たちもだ。
ただ神奈川第一だけは
これも予定通り。
計算し尽くされた作戦だった。
時間は戻り試合前日。。。
(秀人は部員を集め話した。
「前半は一切攻めない。
後半10分で試合を決める。
これは俺たちは交代要員がいないからだ。
前半に攻め守備を繰り返したら体力が持たない。
またはそこから怪我人が出たら
交代出来る選手がいない。
なら後半始まってすぐに点を取る。
前半を見ている相手なら少しは油断しているだろう。
そこでギアを上げてケリつけるぞ」)
この言葉通り。
神奈川の体力はほぼある状態での
後半に突入していた。
「おいなんだよ、
これ、、、前半と全く違うじゃねーか、、、」
新開の選手はこの展開に焦りを見せていた。
「あのー、、、大丈夫??」
座り込む新開の選手にナツが声をかけた。
ナツを見た新開は睨んだ。
「怒ってる!?まあ、始まったばかりだしさ!
お互い頑張ろうぜ!」
ナツの言葉は新開の選手には聞こえてなかった。
もう自分達が負けてしまうと言うプレッシャーに押しつぶされそうだった。
そこからも秀人の知略と走るサッカーにより
スコア 6-0 神奈川第一高校 勝利
ナツは3点のハットトリックを取り
そして、仁、勇気、吉田のゴールで
神奈川第一の圧倒的な勝利で
この試合の幕を閉じた。
第四話 神奈川第一高校 対 新開高校 2 end...