第二話 やるしかない
ナツの言葉に誰も声が出なくなった、、、
「今なんて言った、、、?新開って言ったのか、、、?」
勇気が聞き直した。
ナツはまた笑顔で言った。
「そうっスよ!新開と試合組んどいたんで!
楽しみッスねー!早く練習しましょ!
って、まだ授業あったか!」
ヘラヘラしながら笑うナツに安井がツッコむ。
「ちょいちょい待て!今話してたろ!
神奈川最強だって!逆にうちは今試合出来る人数になったばっかで試合になるはずないだろ!?」
ナツの肩をガシッと掴み前後に強く揺らしながら訴えた。
「大丈夫ですって!うちだって負けてないッスよ!
愛だけは」また笑ってる。
頭を抱える仁。
そんな姿を見た秀人は何を言うかと思ったら
笑い出した。
みんなも秀人を見た。
いつもなら冷静な秀人がこの状況で笑っている姿に
おかしくなってしまったのかと心配になった。
「愛か、、、確かにな。
俺らには後がない。もうやるしかないと言う事だな」
「それです!やったりましょう!!」
何でか2人が噛み合った。
2人の姿に周りもなにかわからないが嬉しくなった。
「おー!!マジでいるじゃん、ナツ!
佐々木さん、コイツですよ!
さっき話した新開にいた友達って」
「君がナツくんか、俺は3年の佐々木圭介だ。よろしく頼む」
登校してきた佐々木と1年生の金田達也が言った。
「おー!達也!元気だったか!?
あー!初めまして!
自分、速水夏樹と言います!
よろしくお願いしまーす!」
2年の6人は実はみんな同じ中学でサッカーをしていた
メンバーだったからみんなナツを知っている。
「ってか、
せっかく推薦で入ったのに転校するの早すぎるだろ」
「いや、それはマジでそう!」
2年の風間と達也は久しぶりのナツに笑ってしまった。
「いやいや、実は俺を待っててくれたんだろ〜!
やっぱ持つべき物は友達だよな〜」
ナツは達也の肩を組みながら言う。
達也は口では出さないが嬉しそうな顔をしていた。
「ほかのみんなとも早く会いたいわ!」
ナツは今からみんなと会うのを楽しみで
仕方ない様子だった。
ナツを見るだけでこの2年生メンバーの仲良さが伺えた。
「それじゃあ、また部活開始に集まってくれ。
試合に向けた練習内容にする」
秀人はそう言ってみんなを解散させた。
授業が終わり
秀人が部活に向かうと何やらグラウンドが騒がしかった。
「だーかーらー、ちょっとで良いからそっちまで使わせてくれって!」
ナツと2年メンバー、仁、達也、加藤裕次、吉田圭人、風間陸、獅鷹大輝が野球部員にグラウンドを少し広く使いたいと頼み込んでいた。
「それは無理な要件だわ。俺らだって練習がある。
そもそもサッカー部なんて人数も少ないんだし端で十分だろ。弱いんだし。前は強かったからグラウンドの権利があったが今じゃあ廃部寸前だろ?逆にこっちがお前らのスペース欲しいくらいだわ」
ゲラゲラ笑いながら言ってきた。
そばにいた吉田はムッとした表情で睨みつけ
「そんな言い方なくね?別に普通に頼んでんだからさ」
そんな吉田を風間が抑えた。
「まあまあ。
でも、そこまで言わなくても良くないですか?」
加藤も口を開いた。
「大丈夫だ。
小さいスペースでも十分出来る練習を考えている」
後ろから秀人が2年生に言った。
野球部員は更に言い放った。
「おい、秀人。こいつらなんだよ。
後輩なんだからちゃんとさせろよな」
この野球部員は秀人と同じクラスだった。
「悪いな、俺の後輩が」
秀人は軽く頭を下げた。
その姿を見た2年生は視線を下に向けた。
「わりぃが時間もったいないからもう練習戻るわ、
お前らも廃部まで時間ないんだからとっとと練習でも
してろよ」
腹が立つ言い方だった。
「ヒデさん、すいません。
余計な事したばかりで頭下げさせてしまって」
仁は秀人に謝った。
「謝る必要は何もない。
お前らがやった事は
サッカー部のためにした事であって何も間違っていない。
今度の試合であの言葉を撤回させるとしよう」
秀人は2年生を見て笑った。
「さあ、俺らも時間がない。練習をしよう」
来週の試合まで時間はなかった。
監督がいない分
秀人による練習プランで進めていった。
ポイントを押さえた練習により少ない時間で
試合に向けて仕上げられた。
確実にチームの指揮も上がりチームの結束も高まった。
朝練、授業、練習、そして軽いミーティング。
そして1週間はすぐに経った。
秀人は試合前日に明日の最終ミーティングを行った。
新開の過去の試合を観てどういう攻め方をしてくるか。
新開にいたナツにも情報を得て行われた。
「今日まで時間はなかったが
この短時間でチームは
しっかりレベルが上がってきている。
これもナツが
みんなのモチベーションを上げてくれているおかげだ。
ありがとう。
そして、
みんなも俺の勝手な練習プランについてきてくれて
ありがとう。
しかし、俺達はまだまだ弱い。
人数もこの前やっと揃ったばっかの新生チームだ。
とてもじゃないが新開とは割に合わないことも分かっている。
だが、俺達は俺達のサッカーをするだけだ。
明日はもちろん勝つつもりで試合に望む」
秀人は改めて明日の新開との試合へ意気込んだ。
安井は秀人の真剣な顔を見てニヤけて言った。
「いやいや、最後みたいな言い方すんなよ。
もっと気楽に行こうぜ!」
「ホント!明日もいつもみたいに楽しくサッカーやりましょ!大丈夫ですって!俺いますから!」
ナツはまた何も考えてない答えを言い出した。
これに仁はいつも通り呆れていた。
-試合当日-
快晴
学校には試合を応援しに何人かがすでに訪れていた。
もちろん神奈川第一の応援ではない。
新開の応援であった。
神奈川第一は
グラウンド作りをして先に練習を始めていた。
そして、新開高校が到着。
新開高校監督を先頭にゾロゾロと部員もやってきた。
神奈川第一とは比べられないくらいの部員数で
圧倒された。
「あれ?知らない顔ばっかだなぁ。
あれ1軍じゃあないよ。監督じゃなくてコーチだし」
ナツは新開を見て呟いた。
「だろうな、
俺ら相手に1軍なんて来るわけないとは思っていた」
勇気はナツの隣に並びそう言った。
新開のサッカー部員は100人近くいる。
1軍から3軍まであるチーム構成。
そしてそれ以外の者はベンチすら入れない。
これは1年から3年も同じ。
まさに弱肉強食。
新開で試合に出るためには
まずベンチ入りを目指さなければならない。
「今日はお呼びくださりありがとうございます。
よろしくお願い致します。」
新開のコーチが挨拶に来た。
顧問の斉藤が慌てて挨拶した。
「こちらこそありがとうございます!私たちの練習試合の申し込みを受けて頂き感謝しております。
私が神奈川第一の顧問をやらせて頂いてまして、、、」
自己紹介をしていた途中に新開のコーチが
「大丈夫ですよ。
ただ今日はレギュラー組は学校で練習をしていましてね、
うちで言う所3軍チームの練習になればと思ってるんですがね。」
そう言うと軽く会釈して行ってしまった。
「あの、、、!うちの生徒だって!」
「まきせん、気にすんなよ!あいつぜってーモテねぇよ!」安井は斉藤を気にかけるように声をかけた。
新開もグラウンドでのアップを始めた時、
1人の新開の生徒がナツに声をかけた。
「おい、速水!お前こんなとこに転校したのかよ。
急にどこ行ったかと思ったぜ!お前、うちで一軍から逃げた男って言われてるぜ。どーせ入れたのもマグレだったもんな!」
どうやらナツが新開にいた時のチームメイトだったが
なんとも腹の立つ言い回しだった。
そんな事を言ってる奴の顔をじっくり見たナツは言った。
「あの〜どちら様ですか??俺の知り合い??
んー新開で知ってるのはスタメンの人だけで
3軍にいた人とかは全く覚えてないんだ、ごめんね」
と頭を下げた。
近くにいた安井はナツを見て
「あいつもぜってーモテないな」と苦笑いしたが
仁は首を横に振り
「安井さん、あれはナツのマジの方です、、、
アイツ人の顔と名前覚えるの苦手なんですよ」
とため息を吐いた。
「あ、、、そっちね、、、」
安井も同じくため息吐いてしまった。
ナツの言葉にキレた新開の生徒は顔を近付けた。
「お前なめんなよ、、、まあいいや。
この試合でわからせてやっから!」
そう言って練習に戻った。
「上等だわ、モブキャラ君」
ナツの目つきが変わり
試合時間が迫ってきた、、、
第二話 やるしかない end...