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食堂でオカンと呼ばれた僕が、魔族を拾った話

 次の日、朝早く起きたパトリは昼から始まる食堂の準備をする。

 鍋に水を張り、モンスターの骨や硬くて食べれそうにない肉を入れる。

 色々な料理に使うため、このスープは食堂の根幹である。

 そのスープを弱火で煮込んでいる間に、店内の掃除をしてしまう。

 いつもなら、このまま朝の買い出しに出かけるのだが、今日は二階にお客さんが寝ていることもあって、一度確認しに行く。


「まだ寝てるな」


 すぅ、すぅ。と、静かに寝息を立てている。

 この分ならまだしばらく寝ているだろう。

 ドアを閉めようとして、あることに気付く。


「魔族……か」


 昨日はフードをかぶっていたので気付かなかったが。

 寝返りを打った際に、脱げたのか頭の角が見えていた。

 ここから魔族の領土はかなり遠い、しかも人間とは停戦中とは言え戦争状態。それを考えれば、こんな小さな体がボロボロになっていたのも納得できる。


「とりあえず、起きるまでには帰ってきて何か作ってあげたいな」


 そうつぶやき、パトリはいつもよりちょっとだけ買い出しを早く終わらせようと決めた。


 パトリが買い出しを終え、店に戻ってきた頃。

 女の子はお店の前に座っていた。


「あ、ごめん起きちゃったか」

「大丈夫……です。止めてくれてありがと……なのじゃ」

「ちょちょちょ、まって」


 そう言って離れる女の子を止める。


「朝ごはん作るんだけど、食べていかない?」

「昨日ももらったし、今日ももらうわけに――」


 いかない。そう言いかけて、ぐぅーっと女の子のお腹が可愛く鳴いた。

 顔を真っ赤にする女の子。


「ね? 出ていくにせよ。留まるにせよ。お腹がすいてたら何もできないんだから」

「わかった……のじゃ」


 パトリは厨房に入ると、カウンターに女の子を座らせる。


「さて、今は食欲ある?」

「最近食べてなかったから、すごくある……」

「なら、朝だけど少し重たくてもいいかな」


 パトリは慣れた手つきで料理を始める。

 最初にコメを炊き始め、オークの塊肉を食べやすい大きさに切る。

 それをフライパンで両面を焼く。

 焼き目が付いたら、たっぷり使るぐらい水を入れ十分ぐらい煮込む。


「ちょっと時間かかるから、その間味見してくれない?」

「わかりました」


 朝煮込み始めたスープを取り出し、少し辛めに味付けをして渡す。


「どうかな?」

「ちょっと辛さが足りないかも。です」

「わかった、ありがと」

「それ、全部調味料なのか?」


 女の子はパトリの後ろ。厨房に入っている数百種類の瓶を指さす。


「あぁ、これね。元々両親がやってた時は、五十ぐらいしかなかったんだけど。それじゃ全然足りなくてね。俺はお客さんに合わせて味付けを変えてるんだ」


 女の子は、目を見開く。

 しかし、無理もない。それだけパトリのやっていることは異常だ。

 食堂で一日に何百といるお客さん、一人一人に合わせた料理を作ることなど可能なわけがない。

 しかし、パトリは現にやっていた。

 だから、料理は元になる素材だけ作っていて。そこに、調味料などの味付けでお客さんの好みに合わせる。

 常連ならまだしも、昨日拾った女の子の好みに合わせられるというのだ。


「お、いいかんじかな?」


 肉だけを取り出し、鍋に入れ替え調味料と、魔族領原産の香辛料。さらにコッコのゆで卵を入れる。


「キミって重力魔法使える?」

「……少しなら使えます。です」

「じゃ、この鍋全体に弱めに重力魔法お願いしていいかな」

「わかりました。です」


 重力魔法をかけつつ、女の子はパトリに疑問を問い掛ける。


「なんで、重力魔法をかけるんです?」

「中の蒸気を外に出さない様にした方が熱が伝わって早く出来るんだよ」

「なるほどです」


 女の子の協力もあって、いつもより早く調理が終わる。


「はい、お待たせいたしました。オークの角煮でございます。コメもあるから乗っけて食べるといいよ」

「いただきます」


 女の子はオークの角煮をパクリ。とかぶりつく。

 すると、目を輝かせ。


「おいしい! 辛さもちょうどいいし、控えめに言って最高なのじゃ!」

「そうだろ? 辛さの源は、このドラゴンの爪をペースト状にしたものを入れたから。魔族は辛い物を好きだって知ってたから、入れてみたよ」


 辛さの好みも、スープの時に確認した。だから、辛さはちょうどいいはずだ。


「っ! わらわが、魔族って知ってるのか?」

「朝、角がフードから出てたよ」

「うかつだった……」


 女の子は真剣に悔しそうな顔をする。


「どこにも行く場所無いんでしょ?」

「それは――」

「こっからは、交渉なんだけど」


 魔族という事もあって、この交渉は拒否権の無い、半ば強制の話。 

 身構える女の子に、パトリは一つ提案をする。


「ここで、働いてほしい」

「なんでじゃ?」

「僕一人で何とか回してるけど、正直しんどい。ウェイトレスが欲しいんだよ」

「でも、わらわがそれに従ってやる必要なんて」

「お金ないのに、ご飯に寝泊まり」


 ギクッと女の子の手が止まる。


「しかも今なら、三食付いて寝る場所もある」

「ま、まぁ。そこまで言われたらやってやる」

「やーよかった、ここはツケなんてやってないからね。無銭飲食なんてもってのほかだったよ」


 女の子はあきらめた顔をして、再び角煮を食べ始める。


「そういえば、わらわはシャリテだ」

「ああ、僕はパトリだ。これからよろしく」


 こうして、パトリは魔族のシャリテを拾った。


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