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わたくし、最後の仕掛けをいたしますわ

 叔父様の栄華はあっけなく終了し、伯爵位は近く正式にジャスティンお兄様のものになることになりました。

 当然、ウィルは無罪放免です。キースさんとマーガレットさんはとても喜んで、兄との再会を果たしました。わたくしとウィルの仲は誰しもが知ることとなり、皆の公認となりました。


 さあ、これで、一件落着――というわけではありませんでした。

 そうなのです。まだ解決しなくてはならないことがありました。わたくしの企みは、もう一つあったのですから。


 


 その日は建国祭の当日でありました。昼には式典が、夕方からは親睦のためのパーティがございます。

 

 ウィルとの暮らしを改めて始める前に、わたくしはお城の一室を訪ねました。いらっしゃったのはアリエッタ様です。

 窓際に設置された一人がけの椅子に、ぼんやりと座っておられました。わたくしが入ると、けだるげな視線を一度だけこちらに向け、大きなため息を吐かれました。


「メイベル、あなたは随分と上手くやったのね」


 お側に立ち、スカートの端を持ち上げて一礼してから、微笑み返しました。


「ええ、わたくし、欲しいものは何が何でも手に入れたくなってしまう質なんですもの」


 わたくしの笑みにも、彼女の表情は優れません。わたくしがウィル相手にいざこざやっている間にも、アリエッタ様とユーシス様の間の溝は埋まっていないようでした。

 

「それで、なんの用なの? 夫と暮らして、ただの一般人になるあなたが、このわたくしに一体、なに?」

 

 不機嫌そうなアリエッタ様に向かい、わたくしはそれを差し出しました。革表紙の、それは手帳でございました。


「なんなの?」


 不審そうにしつつも、彼女は興味を引かれたようです。


「わたくし、伊達に何年もユーシス様の婚約者でいたわけではありませんわ。いざというときに備えて、書き溜めていたんですの」


「何を?」


「ユーシス様のお小遣いの中身です」


 お小遣い――? と、アリエッタ様はますます眉間に皺を寄せます。

 ユーシス様は、あれで意外にも几帳面な一面があり、ご自分のお金の管理を、細かく帳簿に書き残しておりました。もちろんご自分で書かれたのではなく、近しい方に記載いただいているものではありますが。


「ただのお小遣い帳ではございませんわ。ユーシス様の腹心のハリー・ホール様が管理されている、いわば裏帳簿です」


 隠し場所を突き止めるのは実に簡単なことでございました。勤勉とは言い難いユーシス様の執務室の本棚に、妙にホコリの溜まっていない本がある一角があり、その奥に、帳簿の原本が隠してありました。

 ここぞ、というときに使おうかと思っていたのです。中々機会は巡ってきませんでしたけれど。

 アリエッタ様はじっとわたくしの持つ手帳を見つめておられました。


「ユーシス様がお持ちの領地のお金が一部、とある男爵家に定期的に流れているのですわ。他にも、商人の家や外国の貴族まで。妙だと思いませんか? どうして王子様が、彼らにお金を援助しているのでしょうか」


 これはわたくしの切り札でした。


「どうしてだというの――?」


「わたくしの調べによりますと、どの家にも美しい女性たちがいて、しかもある期間、地方に下がっていたことが分かりました」


 困惑した表情を浮かべていたアリエッタ様ですが、やがてハッしたようにわたくしを見ました。


「まさか! ――そうなの?」


 静かに頷き、わたくしは言いました。


「本日の式典には、わたくしも末席に招待されておりますの。パーティにも出席いたしますわ。またお会いしましょう」


 未だ唖然とするアリエッタ様に手帳を託し、わたくしは部屋を後にしました。 

 



 建国祭の式典は大聖堂で執り行われました。国王陛下がご挨拶をし、我が国の発展を宣誓します。

 王家の席にはセレナ様のお姿も、ユーシス様のお姿もありました。けれどレティシアはユーシス様の隣にはおらず、わたくしとお兄様の間にちゃっかりと座っておりました。

 婚約者が隣にいないことに、ユーシス様はまるで無頓着のようで、代わりに別の美しい令嬢を伴っておりました。


 今日のために賓客として招かれたはずのアリエッタ様のお姿はどこにもありません。パーティには来てくださると良いのですが、いらっしゃらないのならば、お部屋までお迎えにあがりましょう。

 けれど心配は杞憂でありました。

 その後、お城の大広間で開かれたパーティ会場には、彼女のお姿があったのですから。胸の前で組まれた両手にわたくしの手帳をしっかりと握りしめながら、彼女はユーシス様を睨みつけておりました。


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