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わたくし、彼を救ってみせますわ

 ずぶ濡れのキースさんとマーガレットさんを着替えさせた後で、成り行きでお部屋に招いたエドワード様とともに向かい合いました。

 二人共、可哀想に顔色が悪く、暗い表情を浮かべていました。


 温かいお茶を差し出すと、わずかに安堵の息を漏らし、キースさんは話し始めました。


「突然、押しかけてすまない。俺にはどうしたらいいのか、全然分からなくて。ウィルが何をしでかしたのか知っている。このままじゃ死刑になるってことも分かってる。

 でも、信じてくれメイベル。あいつは、自分の意思でやったわけじゃないんだ!」


 わたくしは何度も頷きました。


「ええ、わたくしもそう思っておりますとも」


 キースさんは悲痛な表情のまま続けます。


「二日前に、ウィルが、言ったんだ。二人でどこか遠い場所へ逃げろって。家には二度と戻るなとも言った。理由を問いただしたよ、当たり前だろう。

 あいつは最後に、白状した。サイラス・ハイマーに最後の仕事を言い渡された。だがしくじるはずだから、その時に俺やマーガレットに危害が及ぶかもしれないって。失敗するかどうかなんてやってみなくちゃ分からないだろと言ったし、そうだなとも答えていたが、今思えば、やり遂げるつもりなんて、ウィルには初めからなかったんだ。メイベルの兄を、殺す気はなかった。だから俺とマーガレットに、逃げろと言ったんだ」


 キースさんの視線が、助けを求めるようにわたくしを見ました。


「昔、ウィルが言っていた。いつの日か、俺たちのところに、殺人の罪を暴きに誰かが来るかもしれないと。間違いなく自分が犯した罪だと言っていた。金欲しさに、人を殺したのだと。……俺は本当にあいつがどこぞの誰かを殺したんだと思っていた。だが、そうじゃないんだと思う」


 わたくしは彼の視線を受け止めます。

 そうして義理の弟妹に、言い聞かせるように言いました。


「聞いてくださいまし。わたくしの考えはこうです。ウィルは、脅されていたのだと思います。

 発端は、わたくしの両親の死でしょう。表向きには病死でしたが、殺人なのだとサイラス叔父様がエドワード様におっしゃいました。犯人はウィルで、動機はお金目当てだと。実際、ウィルはそれを認めました。

 ここが違うのだと思います。ウィルがお金目当てや貴族憎しと殺人を企てるような人間でしたら、サイラス・ハイマーこそ殺しているはずです」


 だから、とわたくしは続けました。


「わたくしの両親の殺害を企てたのは、間違いなくサイラス叔父様ですわ。実行は、別の人間にさせたのでしょう。それも、殺意がなく、疑われにくく、本人さえも殺人を犯したと気づいていない内に。

 当時、熱病にたおれていた両親に最も近づきやすかったのは給仕係はウィルでした。熱病の感染を恐れて、限られた人間しか寝室に近づくことはできませんでしたから。

 その料理に、叔父様は毒を入れたのです。両親が亡くなった時、叔父様は屋敷に滞在しておられましたもの。機会はいくらでもあったはずです」


 隣で聞いていたエドワード様が唸ります。


「なるほど……。意図せず殺人者になってしまった彼を、ハイマー伯は脅していたということですか」


「もし当時、毒殺であると露呈していたのなら、叔父様は実行役を犯人にして処刑させるつもりだったのでしょう。

 でも、両親は熱病で亡くなったことになりました。もともと患っておりましたから、疑う人間はいませんでした。ですから叔父様はウィルを脅して自らの部下にして、手元に置いていたのでしょう。歯向かったら、弟と妹に危害を加えるとでも言ったのだと思います」


 ひ、とマーガレットさんが小さな悲鳴を上げたので、慌てて笑いかけました。

 

「大丈夫ですよマーガレットさん。わたくしがいる限り、決してそのようなことにはなりませんから。

 ――ですが、それでウィルは、叔父様に従わざるを得なかったのでしょう。でもジャスティンお兄様を殺すことはできなかったから、最も被害の少ない方法で、終わりにしようとしているのです」


 再びエドワード様が低く唸りました。


「しかしメイベル様、それが真実だったとして、どうやって彼を助けるのです。単に牢から出しただけでは、同じことの繰り返しでしょう。ハイマー様の言葉を信じてしまった私が言うのもなんですが、再び彼に利用される未来が待っているだけだ」


 それはその通りでした。ですがわたくしには、一つの道筋が見えておりました。


「わたくしに考えがございます。少々手荒なことをいたしますが、悪くない手だと思いますわ」


 わたくしの言葉に、皆様が顔を見合わせるのが分かりました。

 ――実はわたくし、この場で一つだけ皆様に言っていないことがありました。

 誰がわたくしの両親に毒を運んだのか、ということです。

 それはウィルではないのです。当時、屋敷に使用人として雇われていたのは、彼だけではなかったのですから。ですがこのことを、この場で言うつもりは決してありませんでした。



 その日のうちに、必要な物と人を集めて、わたくしは再び牢を訪れました。

 手には、丁度人一人が入る大きさの、パンパンに中身が詰まった麻袋を持ちながら。


 大層重いその麻袋を引きずりながらウィルのいる牢まで行くと、彼は困惑したかのように眉根を寄せます。


「また来たのですか? まだ日は明けていないと思いますが……。それにその袋はなんです? 今度は何をするつもりですか」


 至極冷静に、わたくしは答えました。


「あなたから、真相を聞き出しにまいりました」


 すべてに決着をつけるためには、まずはウィルから説得しなくてはなりませんでした。

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