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わたくし、結婚いたしますわ

 即日、わたくしの処分が決まりました。決めたのは亡くなった両親の代わりにわたくし達兄妹の面倒を見ていた叔父様のサイラス・ハイマー伯でした。


 ユーシス様と婚約を決めたとき、あれほど喜んでくださった叔父様は、カンカンに怒ってわたくしに会いたくもないようです。彼の言伝を伝えに来た使者は、こう言いました。


 “今日中に領地へ下がり、使用人と結婚しろ”


 粗相をした一族の娘を適当な男と結婚させ、地方へ追いやるのは叔父様のいつもの手でした。

 分かりきっていた命令でしたので、素直にわたくしは頷きました。



 ◇◆◇



 結婚相手はすでに準備を終え、城の外で待っているということでしたので、わたくしも慌ただしく準備をしました。まごまごして、ユーシス様がやっぱりわたくしを処刑するだなんて言い出さないうちに、叔父様の領地へと逃げることができればひとまずの安住を得ることができます。わたくしだったら最愛の人に毒を盛った人間を、生かして許しておくはずもありませんもの。


 使用人は、爪弾き者となったわたくしに、一人として付いて来たがりませんでした。仕方がないのでわたくしは孤独に城の外に出ようとします。


 直前で、ぬらりと現れた人がいました。

 わたくしの兄、ジャスティンお兄様が、ひどく渋い表情を浮かべてわたくしを睨んでおりました。にっこりと微笑みかけます。


「あらジャスティンお兄様。わたくしと一緒に領地に行ってくださるの?」


 はあ、とお兄様はため息を吐きました。


「行くわけないだろ、僕は王家に目をつけられたくない。だがお前らしくもないヘマをしたなメイベル、これでお前はしばらく城に出入り禁止だし、領地に謹慎だ」


「しばらくの間? 永久追放だとユーシス様はおっしゃいましたわ」


「一週間もすればお考えを改めるだろうさ、彼は勢いの方だから」


「ではお兄様も一緒に来てくださればよろしいのに。きっとわたくし、寂しい思いをしますわ」


「殿下との婚約破棄の上に、実の妹に毒を盛った悪女とは、誰も関わり合いになりたくない。正直僕も、お前が大事じゃなきゃ、見送りにだって来たくないくらいだ」


「わたくし、毒なんて盛っていません」


「さっきは認めだだろう? 僕も見ていたぞ」


「婚約破棄で弱った乙女の心の隙間に入り込もうと言い寄る殿方を黙らせたかっただけですわ」


 インターレイク家の三兄妹が誇りに思う金髪が、夕日を受けて輝いていました。ハンサムなお兄様は、その顔を呆れたように微笑ませます。


「お前の性格の悪さを愛しているよ。妹でないなら妻にしたいくらいだ。さぞ素晴らしい家庭になるだろうさ」


 言ってから、お兄様はふいに真面目な表情になります。


「いいかメイベル。お前の夫になる男は従順で朴訥とした善良な男だ。平民だから、お前の言いなりになるかもしれない。顔も悪くはないし、お前は絶対に気にいるだろう。だがもし彼を気に入ったとしても、体の関係を持つな。いいや、持ってもかまわないが、誰にも気取られるな」


「あら、なぜ?」


「いずれ殿下がレティシアに飽きてお前を求めるかもしれない。その時に、平民のお手つきの女など嫌がるだろうからな。まあすでに、清らかさという点では手遅れだろうが」


「お兄様はわたくしを純潔だと思ってくださらないの?」


「冗談はよせ! 十四の時、三十も過ぎた公爵と良い仲になっていたのを知っているんだ。当時からお前は悪女だと囁かれていたぞ」


「わたくしたち、体の関係はございませんでしたのよ?」


 子供に言い聞かせるように、慈悲深い声でお兄様は言いました。


「いいか、メイベル。お前が純潔かそうでないかは問題じゃない。殿下がそう思っていることが重要だ。うっかり平民の子を妊娠したら、二度とお呼びはかからない。かかったとしても愛人止まりだ。それにエドワードが再びお前を求めるかもしれない。そうじゃなくとも、レティシアがお前に助けを求めるかもしれない。その時に誰かの目に止まったら、再びお前は賭けのテーブルの上に並べられるはずだ」


「そんなに心配なさらなくとも分かりましたわ」


 お叱りを受けるのは嫌いです。


「それじゃあお兄様、お手紙を書いてね。わたくしもたくさん書きますから」


 素直にそう頷いて、お兄様とお別れをしようとしたときです。背後から呼び止められました。


「夫の名を知りたくないのか」


 ゆっくりと振り返ります。


「そう言えば、聞きそびれておりましたわ。誰ですの?」


「ウィリアム・ウェストだ。両親のいない孤児で、年は僕と同じ二十三。お前の五つ上だ。

 叔父がよく使う小間使いの一人で、信頼もされている。

 魔法の才能にも恵まれていて、先の戦争では手柄も上げたそうだ。身分が高ければハリー・ホールなど及ばないほどの宮廷魔法使いになるだろう。僕も認めるいい男だ。

 馬の扱いは王国で一番だと思うよ、僕の馬もいつも彼に任せている。お前のようなじゃじゃ馬の世話も上手いといいが」


 わたくしはにっこりとお兄様に笑いかけました。


「とても慰めになるお言葉、ありがとうございます」


 そう返事をすると、やっとお城を出ることができました。

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