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わたくし、罪を告白しますわ

 その日の夜は、雨が降っておりました。

 一晩を過ごす宿屋の窓から抜け出して、繋がれた馬を一頭拝借し、来た道を引き返すことにします。

 部屋に、ジャスティンお兄様とレティシアに向けて、一通だけ手紙を書きました。


「さようなら。貴族令嬢メイベルは死にます」


 そうしてわたくしは、軽快な気分で旅立ったのです。

 わたくしは悪女でございます。紛うことない悪女であるのです。欲しいものを手に入れるためなら、手間を決して惜しみません。




 ――ここに、わたくしの罪を告白します。


 ずっと幼い頃の話です。

 わたくしには、大好きで大好きでたまらない、少し年上の男の子がおりました。

 彼は優しくて頭が良くて、かっこよかったのです。わたくしは彼と結婚するつもりでした。当時は身分の差に、疎い少女でございましたから。

 けれど、数年もしないうちに、わたくしたち兄妹は別の家に預けられ、その男の子とは、離れ離れになってしまいました。


 でもずっと、彼のことを想っていました。心の中にある温かな彼との思い出があれば、どんな噂を立てられてもへっちゃらでした。

 やがて、この国の王子とわたくしの婚約がまとまりました。初恋を大切にしながらも、わたくしはユーシス様と結婚するつもりでした。本当に、そのつもりだったのです。


 でも、運命はやってきてしまいました。


 偶然、叔父の用事を仰せつかった彼と、お城で再会してしまったのです。思わず声をかけてしまいました。成長した彼を当然知っていました。だってこっそり、見つめていましたから。

 わたくしが彼を覚えているとは少しも気付かれないように、あくまで叔父の使用人として見かけたことがあるだけのように、気さくに、爽やかに、話しかけました。

 彼は昔と寸分変わらない穏やかな笑顔を、わたくしに向けてくださいました。

 

 止まっていた時が動き出したかのように思いました。

 王子と結婚なんてしてはだめだと気が付きました。


 彼はもうすぐ結婚するのだと言っていました。

 だとしたら、どうにかしないと――。そう、思いました。

 便秘薬を、毒薬なのだと妹に偽り話ました。薄めれば死ぬことはないけれど、体調不良は起こせるから、嫌いな人の飲み物に入れるつもりなのだと、真意を悟られないように、彼女の前で、そう言いました。

 レティシアは、子供の頃からわたくしに張り合ってきました。わたくしのものをなんだって欲しがりました。ユーシス様を欲しがっていることは知っていました。だからきっと、なるようになるのだと思いました。

 叔父は粗相をした娘を、適当な男と結婚させ地方に下がらせるという手を多用していました。わたくしは叔父にとって未だ価値のある駒でしたから、いずれは地方から呼び戻すつもりだろうと思いました。であれば、口が固く実直な信頼できる男性で、わたくしと年が近い方と、結婚させるのではないかと予測しました。

 あとは、彼――ウィリアム・ウェストがわたくしを愛すれば、わたくしの計画はすべて上手くいくはずでした。


 その最後の部分で、これほどしくじるとは、思ってもみなかったのです。

 けれど、失敗も今は過去のものです。


 彼の家へ向かう道すがら、わたくしはびしょ濡れになってしまいました。でも少しも打ちのめされてはおりませんでした。

 幼い頃に領地の森で遊んで、優しい両親が待つ家へ戻る時のように、とてつもない幸せに心は満ちておりました。



 ◇◆◇



 そうしてわたくしは彼の家へと向かい、驚愕の表情を浮かべる彼によって、出迎えられたのです。ちっとも歓迎していない様子で、彼は言います。


「メイベル様――なぜ。愛していないと、手紙を書いたでしょう」


 なんてこと。

 ではあれは本当に、ウィルが書いたということなの?


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