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わたくし、裏切られましたわ

 お兄様の本の好みや料理の好みを伝え、お茶に誘ってみてはいかがと当たり障りのない助言をしたところ、セレナ様は大変満足そうに頷きました。


「明日から頑張ってみるわ! ライバルは多いけど、妹の一番の親友はわたくしなんだもの、きっとジャスティンだってわたくしのこと、悪くは思っていないはずよ」

 

 なんとも微笑ましいお姿です。それからわたくしは、最後にこうお伝えしました。


「恋ならば、帝国の第十皇女様がお詳しいですわ。そうだ、丁度今度、建国のお祝いがあるでしょう? お招きするように、両陛下に頼んで、お話されてはいかがでしょうか?」


 セレナ様はまたしても、大変熱心に頷きました。

 

 それからしばらくの間、セレナ様とお話をして部屋に戻りましたけれど、やはりウィルの姿はありませんでした。

 これは本格的に探しに行かなくてはなりません。叔父様とのお話が長引いているのなら、それこそ救いに行かなくては。

 そう思って部屋を出た瞬間、待ち構えていたかのようにジャスティンお兄様が佇んでおりました。


「……まだわたくしに用がございますの?」


 疲れた様子でお兄様は言いました。


「レティシアの部屋に行ってくれ。またグズり出した」


「レティシアに助言はいたしました。これ以上のことはできませんわ。わたくしはさっさと領地に帰りたいのです」


「なあメイベル。頼むよ。レティシアの憔悴がサイラス叔父にバレたら僕等は切り捨てられるぞ。そうしたらお前の暮らしだって取り上げられるに決まっている。レティシアが落ち着くまで――いいや、この際、今日の夕食だけで構わない。同席してくれ」


 いつもだったら妹にここまで引き下がることはないお兄様です。半眼で睨みつけました。


「ジャスティンお兄様ったら、何か企んでいるのですか?」


「愛しい妹よ、神に誓って企みなどないさ」


 そう言って爽やかにお兄様は微笑みましたが、怪しいものです。

 セレナ様は、この兄のどこに惹かれたのでしょうか?




 その日の夕食は、国王夫妻とユーシス様とわたくしたち三兄妹、他に王家のお気に入りが招かれました。

 わたくしがレティシアに毒を盛ったとされたことなど、皆忘れてしまったかのようににこやかです。

 この場にわたくしを招いた張本人であるにも関わらずジャスティンお兄様はホッとしていたようですけれど、罪が許されたことなど、正直わたくしにはどうでもよろしいことでした。いち早く部屋に戻って、ウィルの腕の中で安らぎを得ることばかりを考えていました。


 ユーシス様のお隣には、別の家の美しい娘がおりました。レティシアはそれを離れた席から青ざめた顔で見るだけです。宮廷内の恋愛模様が変わったことは明らかでした。

 なるほどユーシス様はわたくしへの興味を失っているのでしょう。許されたわけではなく、興味がなくなったのです。


 わたくしの隣には、ノーウェア公爵嫡男エドワード様が座っておりました。美しい笑みでわたくしのグラスにワインを注ぎます。


「メイベル様、あの時は大変失礼な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。あなたの冗談に面食らってしまって反応できなかったのもお恥ずかしい」


「いいえ、驚きましたけれども、別に平気ですわ」


 まったくなんとも思っていませんので。


 向かいに座るお兄様がわたくしを睨んでいます。下手を打つなよとその視線は告げていました。

 エドワード様はわたくしの耳元で囁きます。


「正式な手続きを踏みました。あなたの叔父様に許可をいただきましたよ」


「許可? 一体、なんの?」


 はて、どのようなお話なのかわたくしは分かりませんでした。

 小首をかしげて尋ねると、彼はあっさりと言います。


「結婚のです」


 聞いた瞬間、声をあげて笑ってしまいました。一体どんな面白い話がされたのかと、テーブルに並ぶ数人がわたくしを見るのが分かりました。


「ふふ、とっても面白い冗談ですわ! あいにくわたくし、もう結婚しておりますの。わたくしは今、メイベル・ウェストでございますから、ウィリアム・ウェスト以外の誰とも結婚できないのですわ!」

 

 エドワード様のユーモアのセンスは流石でございましたが、彼は心外だとでも言いたげな表情を浮かべています。


「結婚は無効だったと聞きました。ついさっき、あなたの叔父様からです」


 ふいに心臓が冷えたように思いました。エドワード様は冗談を言ったわけではなかったのでしょうか。

 彼は続けます。


「あなたの偽りの夫は、あなたの護衛に過ぎなかったそうじゃありませんか。先程金を受け取り、その足で城を出たと聞きましたよ。あなたの身の安全の確保のために、結婚したことにして地方に下がらせただけだったと、サイラス・ハイマー様はおっしゃった」


「まさか!」


 立ち上がった衝撃で椅子が背後に倒れました。誰もがおしゃべりを止め、わたくしに注目していました。

 セレナ様が心配そうな目をわたくしに向けました。


「メイベル、座れ」


 ジャスティンお兄様がすかさず言います。

 

「皆さん失礼しました。妹は今日王都に着いたばかりで疲れが溜まっているようです。問題ありません。だろうメイベル」


 返事ができないわたくしに変わって、上座から陽気な声が飛んできました。


「お転婆と無邪気さは相変わらずだな! メイベル、久しぶりに会ったんだ、私の隣に来るといい」


 ユーシス様が手招きします。確かに見る影もなく太ってらっしゃいます。

 わたくしは素直に従い、彼の隣に座り直しました。けれど頭の中では、ウィルのことがぐるぐる回っています。

 きっと嘘か、勘違いでしょう。

 ウィルはわたくしを愛しているはずです。部屋に戻ったら、彼の温かな笑顔があるはずです。わたくしは夕食の残りを少し持っていって、彼と二人で食べるつもりです。


 けれど夕食が終わり、部屋に戻ったとき、そこは蛻の殻でした。

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