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わたくし、お城に戻りましたわ

 レティシアの部屋に行くなり、お兄様の嘆きの理由が分かりました。

 美しかったレティシアはひどくやつれ、亡霊のように顔色が悪くありました。わたくしを見るなり、彼女は喚きます。


「どうしてもっと早く戻ってこないのよ! 助けを求めたのに!」


 レティシアはわたくしの背後に目を向けました。ウィルに気がついた瞬間、その目が吊り上がります。


「なぜ従僕がいるの!?」


「信頼できる人だもの」


「嫌よ! 出ていって! メイベル以外に会いたくない!」


「彼は安全よ。この世界の誰よりも優れた人です」


 そう言っても、レティシアはウィルを睨みつけたままです。ウィルはわたくしに囁きました。


「俺はハイマー様に会ってきます」

 

 叔父に会うと言ってから、彼はわたくしの手を取りキスをしました。それだけでわたくしの心臓が脈打ちます。

 彼の目には燃えるような愛情が灯っていました。だから心配などなにもないのだと、わたくしは思いました。 


 二人きりになり、レティシアをソファーに座らせ、わたくしも隣にかけました。


「一体どうしたの」


 聞いた瞬間、レティシアはわあわあと泣き出してしまいました。


「メイベルはどうやってユーシス様と何年も婚約できていたの? わたし、耐えられない! ぶくぶく太って、もう全然格好良くないんだもの。それにわたしの言うことなんて少しも聞かないわ! わたしの目の前で、他の令嬢を追いかけ回すのよ!」


「それがあの人よ。まさか、正面切って小言を言っているわけじゃないんでしょう?」


 レティシアの顔は青ざめました。


「どうしよう言ってしまったわ。だって我慢できないんですもの」


「だめよ。いいこと? ユーシス様は大きな赤ん坊なの。褒めてあやしてあげなさい。わがままを決して叱ってはダメだし、他の女性に夢中になっているときは、一歩引いて待っているの。そうしたら、そのうち戻って来るから」


「そんなの無理! メイベルはどうして耐えられていたの?」


 微笑みだけを返しました。耐えられたわけ、ないじゃありませんか。


「お願いメイベル、わたしを守って。不安なの。昔、嫌な目つきでわたしたちを見る公爵がいたでしょう? あの時もメイベルはわたしを守ってくれていた。自分が壁になってくれたでしょう? ユーシス様との婚約破棄だって、あなたはきっと気付いていたのに、身を引いてくれたじゃない。今回だって守ってよ!」

 

 わたくしが悪女と呼ばれるようになったきっかけであるあの公爵は、若い娘が好きなようでした。欲望がわたくしとレティシアに向いていました。

 ですからわたくしは、彼に気があるそぶりをして、レティシアから目を逸らさせていたのでした。

 インターレイク家の娘のうち、どちらかに傷がつかなければ、叔父様の庇護は変わらずありました。まだ幼さから抜け出せない当時のわたくしたちは、たった一つの下手も打ってはならなかったのです。


「手は二つに一つよ。ユーシス様を諦めるのか、諦めずに耐えるのか。……わたくしの考えを言います。諦めなさい。将来の王妃の座なんて手に入れたところで、虚しいだけ、愛はないもの」


「彼を諦めるなんて絶対に嫌!」


「なら耐えるしかないわ」


 冷たいと思われるかもしれません。でもわたくしがユーシス様と婚約している時も、それしか方法はありませんでした。

 泣いてすがるレティシアを、それしか方法はないと説き伏せて彼女の部屋を出た時です。見知った家臣の姿があり、わたくしを見るとさっと寄って参りました。

 それはユーシス様の妹の、セレナ様の使用人です。


「メイベル様。セレナ様がお呼びでございます。部屋にいらしてほしいとのことですので、お急ぎくださいませ」


 王女様は十二歳であらせられまして、外見はユーシス様に似ております。けれどもとても可愛らしく、美しく、素直な心があり、そうしてとびきり賢い方でした。わたくしがユーシス様と婚約している時も、わたくしのことを気にかけてくださり、度々二人きりでお茶会をしたものです。


 大好きなご友人でした。しかしわたくしは言いました。


「急かされるのは好きではないですわ。一度部屋に戻りますので、それから参りますとお伝えくださいまし」


 早くウィルに会いたくて、お部屋に戻りたかったのです。

 けれども部屋に顔を出しても、ウィルはおりませんでした。叔父様とのお話が長引いているのでしょうか。

 ほんの少しだけ胸のざわめきがありましたけれど、きっと気のせいだと思うことにして、わたくしは王女様のところへ向かいました。

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