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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
第1章 首刈る竜と忘失の女神
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出会いと再会の色

「お父様おかえり。おみやげ」



「あなたおかえりなさい。随分と急な帰宅ですね、仕事の方は良いのですか?」



「ただいま。ああ、明日朝早くにまた出なければならないんだが、ちょっと紹介したい子がいてね。ベイル」



「おみやげ?」



 お父様に声をかけられ、期待した瞳でお父様に近寄っていく。

 エイルバーグ=ドラゴニカ、私の父親で、この国――アルスヴォルグの王都、エレルアの王国騎士団で副団長をしている。

 以前お父様が鍛錬をしているところを覗いたことがあるけれど、副団長に選ばれるだけの実力を持っているのは確かで、あの気迫、あの洗練された太刀筋……ぜひ見習いたいと私は思った。



 しかし私はまだ4歳、子どもは子どもらしく両親には甘えたい。鍛錬なんて本気でしたらきっと心配をかけてしまう。まあ隠れて多少はしているけれど、それでもあまり心配はかけたくはない。

 そんなお父様とは今は離れて暮らしており、こうやってたまに帰ってきてくれるのだけれど、やはり一緒に暮らしたいとは思っている。



「ベイルはお土産が本当に好きだなぁ。まあ土産といえば土産だな」



 そう言ってお父様が背中にくっ付いている小さな影の背をそっと押し、私の目の前に出した。



「……」



 小さな女の子、真っ黒な髪のショートボブ、海色の青い瞳は吸い込まれそうなほど深く、見つめていると吸い込まれそう。そして頭にはカチューシャで、服が……エプロンドレス? つまり、メイドの格好。

 私より年下に見える女の子だが、ふと私の鼻がピクリと動き、嗅ぎ覚えのある匂いに私は彼女に早足で近づく。



「彼女は私の知り合いのところの子なんだが、この間不幸があってね、ぜひ引き取りたいと申し出たところ、ベイルの専属のメイドをやりたいと――」



「おらぁ!」



「もんてす!」



 私は少女を一発殴った後、すぐに背後に回り、彼女の脚に自分の足を絡めて腕の下を通り首を腕で巻き付けて、背筋を伸ばすようにする。



「コブラツイスト止めてぇ! というかなんでバレた――」



「突然どうしたベイル!」



「あらら」



 驚くお父様とクスクスと笑っているお母様を横目に、私は腕の中で極まっている少女に目を落とす。

 この少女、この小娘、このクソガキ、忘れるはずもない。私をこの世界に連れてきた神と名乗った子だ。



「え~なんでぇ? う~ん……【神眼(・・)】発動。ってこれか、【魂を嗅ぎ分ける者】うわ、変装どころか生まれ変わったとしても探し当てられるスキル。厄介なぁ」



「なにをわけわからないことを――」



「あ~、とりあえずお嬢様(・・・)、事情は後でぇ、エイルバーグ様が驚いていますわぁ」



「む」



 私はチラとお父様に目をやるのだけれど、どうしたらいいのかわからないのか、あたふたとしており、副団長の影も形もなかった。

 私は息を吐くと技を解き、少女を撫でてやる。



「わふ」



「お父様、こちらの可愛らしいお嬢さんは一体?」



「え? あ~えっと……ルミカ=アンヴエル、今日からベイルの身の回りのことをしてくれるメイドさんだ」



 私はジトットした目を自称神の少女――ルミカというらしい彼女に向け、肩を竦ませる。

 確かに来ると話していたけれど、一体どういう設定でお父様までたどり着いたのか、家族に不幸? こいつ何かしたのではないだろうか。

 そんなことを考えて私は再度ルミカの頭に手を置いた。



「え~っと、知り合い……な、わけはないよな。ベイルはここから出したことないし、ルミカも王都から出たことがないと」



「ちょっとしたスキンシップですわぁ」



「随分と過激なスキンシップをとるようになったね!」



 私はニコリとお父様に笑みを見せるとルミカの手を取った。

 このまま両親の2人がいては埒が明かない、少し2人きりになろう。



「お父様、お土産ありがとう。ルミカさんに屋敷を案内するね」



「あ、ああ――」



「え~、僕着いたばかりですのでゆっくりしたいで――ぇぇいだだだだ! 腕ぇ! ねじれる、ねじれちゃいますよぅ!」



「さっルミカさん、行きますわよ」



 ルミカの腕を思い切り握り、少し捻り上げながら彼女を引っ張っていく。

 お父様が心配気な顔をしていたけれど、正直それどころではなく、とにかく事情を聞こうとひと気のない場所を探し、客室の1つに入り込んだ。



 私はルミカを客室に備え付けられているベッドに放り投げると、指の骨を鳴らしながら近づいて行く。



「いやぁ! ケダモノぉ!」



「ぶっ殺すぞお前」



「……この4年でまるで言葉遣いが治っていないんですねぇ」



「被せるくらいしか出来ないって。何年使っていたと思ってんのよ」



 ため息をつくルミカが脚を伸ばして放り投げ、う~んとベッドに横になって伸びをした。

 これメイドとしても全くダメな奴ではないだろうか。



「あんたなんでここに?」



「だから~、近い内に会いに行くって言ったじゃないですかぁ」



「確かに言ったけれど、まさか普通に接触してくるなんて思わないじゃん。というか家族ってどういうこと? あんた催眠とかしたの?」



「できませんよそんなことぉ。あなたと同じです」



「同じ?」



「はい、僕も転生してきちゃいました」



 耳を疑った。

 こいつ神とか言っていなかっただろうか。その神がこんな風に人の世界に降りてくるとか、この世界では普通のことなのだろうか。



「あんたいいの?」



「良いわけないじゃないですかぁ。と、言いたいところですけれど、他の大きな世界ならともかく、こんな何にもない端の世界、僕もやることがないんですよねぇ」



 神の考えていることはわからないとよく言うけれど、本当によくわからない。

 でも……。



 そういえばと初めて会った時のことを思い出す。

 久々に楽しめた。とか、今の話でも他にやることがないと――こいつさては。



「あんたまさか、暇で寂しかったから私を連れてきたとは言わないわよね」



「……」



 ピシッと動きを止めたルミカが体を起こすとニコと笑みを浮かべ、窓から入り込む陽の光に体を晒しながら遠くを見つめた。



「ベルお嬢様、見てください。世界はこんなにも、輝いています」



「おい、こっち見ろ」



 するとルミカが頬をリスのように膨らまし、瞳いっぱいに涙をためた目を向けてきた。

 私にどうしろっていうのよ。私は頭を抱えると、椅子に座ったまま「んっ」と、腕を広げた。



 するとルミカが小さい歩幅で近寄ってきて、そのまま私のお腹に顔を埋めるように引っ付いてくる。



「……誰も通らない世界で、僕のことなんて誰も知らずに、ただ見ていることしか出来ないのは、辛いです」



「そう」



「結構頑張っていたんですよぅ。でも、褒められたことなんて」



「はいはい」



「……ちょっとくらい、我が儘言ってもいいじゃないですかぁ」



「そうね」



 私はルミカの頭を撫でながら肩を竦める。

 この子がどんな生活をしてきたのかは知らないけれど、少なくとも私では耐えられないことをずっと耐えてきたらしい。



 まあつまるところ、1人で世界に降りるのが怖かったのだろう。

 そこでちょうどよく私が死んだから、そのまま連れてきた。そんなところだろう。



「……怒っていますぅ?」



「怒ってる」



「あぅ」



「でも、約束だからね」



「ん~?」



「一発殴ったからね」



 お腹辺りで見上げてくるルミカに笑みを見せ、そっとその頬に手を這わせる。

 ルミカは顔を綻ばせ、大きく頷いた。



 そしてくっ付いているルミカをそのまま撫でていると、客室の扉がそっと開き、お母様とお父様が私たちの様子を窺っているのが見えた。



「仲良くやれそうで何よりだな」



「ええ、ベイルちゃんは優しい子ですもの、ルミカちゃんもすぐに好きになってくれますわ」



 そう言うのは聞こえないところでやってほしいのだけれど、まあいいかと甘えてくるルミカが瞳を閉じて舟をこぎだすまで、撫でるのを続けるのだった。

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