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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
3章 災害は竜になりえる者

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隠した色は暴かれる前に破裂して

 散々釘を刺されたことだし、今日は大人しくしていようとあたしは体から力を抜き、戦闘圧の鳴りを潜めて存在感を一般人レベルまで低下させるように気配を落ち着かせる。



 息を吐き、体中から力が抜けていくのだけれど、その過程を見ていたお父様とグレイおじさんが顔を引きつらせてこちらを見ていた。



「……エイル、これも天性の才かい?」



「ラットが教えていなければそういうことだろうなぁ」



「この年で気配すら操るのか」



 存在感の上下運用など生きて行く上で必須では? あたしは首を傾げつつ、息を吐いてその仰々しくも厳格に、無駄に絢爛な大きな扉――門を見上げる。

 謁見の間なんて言うが、人1人を押し込むにしてはあまりにもそれっぽ過ぎる(・・・・・・・)



 その扉の両側を守護していた騎士が大きな声でドラゴニカがここに来たことを叫び、それを受けてかその扉が反対側からあけられていく。

 グレイおじさんはこれ以上いっしょに行けないのか、扉が開く直前、あたしに目線をくれて、小さく頑張れと励ましをくれた。

 あたしは頷き、そっと控えるようにお父様の後に続いて歩みを進める。



 目を伏せて進むあたしだけれど、そっと意識を周囲に向けて目線を悟られないように少し上げると、物々しい雰囲気とは裏腹に正面の玉座に座る歯をむきだしにしている若く見えるが荒々しい気配の男性と、その彼の隣に控える騎士団長、2人揃ってあたしに測るような視線を向けてきていた。



 あたしたちドラゴニカを玉座の前にまで連れてきてくれた騎士が、玉座に座る男性にあたしたち全員の名前を伝えるとそのまま下がっていき、あたしたちは揃って彼に向かって跪く。



 お父様が代表となってあれこれと言葉を紡ぐ中、陛下――リールゲン=ヴィルンヴォルグはそんな定型文には興味を示しておらず、終始あたしに目線をやっている。



 そうしてお父様がリールゲンへの言葉を終わらせると、やっとかという空気感で彼の気配がはじけた。



「ああ良い、エイルバーグ、それくらいでいい。お前とこんなところで語り合ってもつまらんのは承知している。だからそんなに固くなることはない。良い、俺が許す、全員顔を上げ、その目で俺を語れ」



 ビリビリと突き刺すような視線に、お母さまが額に青筋を浮かべたけれど、あたしはそれを受け流し、にこりと微笑みながら面を上げた。



「む――?」



 隣のくそジジイが腹を抱えて笑いをこらえていようがあたしには関係ない。

 それを察したのか、リールゲンがつまらなそうに口を尖らせ、視線の圧をひそめると、手をひらひらと振って息を吐いた。



「……これでは測れんか。まあいい、しかしドラゴニカが2代揃うと華やかだな」



 お母さまが隠そうともせずに舌打ちをかますと、リールゲンを一度睨みつけるのだけれど、すぐに女性らしい可憐な笑みを浮かべた。



「もったいなきお言葉です」



「思ってもいないことを口にできる程度には成長したかライラ」



「……今日におかれましては――」



「良い、どうせ大して中身のない言葉だ。俺が今一番聞きたいのはお前たちの愛娘、ベイル=ドラゴニカと言ったか、その娘についてだ」



 お母さまの機嫌が目にわかるほど悪くなっていくにつれ、お父様の額から流れる汗の量が増えている気がする。



「良い許す、ベイル――お前に1つ問う、俺の城の結界を壊したな?」



「――」



 あたしはそっとお父様に目をやると、お父様は肩を竦ませ、リールゲンと言葉を交わすことを許してくれた。



 あたしには対策があった。みんながみんなリールゲンを喜ばせるなと言うから、それなりに考えてきたんだ。

 こういう時ありえないくらいの驚きを以て余計な情報を入れないようにすれば良いと昔誰かが話していたような気がする。

 だからこそあたしは思い至った。

 なんといってもあたしは今6歳だ、何を迷う必要がある。6歳が6歳らしくするだけの話だ。



 あたしは息を吸い、怖い怖い視線のおじちゃん(・・・・・)に向かってニパっ(・・・)と笑顔を浮かべる。



「は~いっべいる=どらごにか、ろくしゃいでしゅっ!」



「――」



「――」



「――」



 空気にひびが入るような感覚、お父様とお母さま、それにルミカは体を震わせるだけで目を合わせてもくれない。

 そして周辺にいる騎士――特に体中を包帯で巻いているラット=ウィンブルス様は過呼吸に陥っているんじゃないかというくらいに呼吸を荒げ、笑いをこらえようとしていた。

 リールゲンの隣に控えている騎士団長様はついにはその場で蹲り、バンバンと床を叩きながらヒーヒー声を上げていた。



「へいか、べいるにはすこしむずかしかったのですが、けっかいとはなんでしょうかぁ?」



「……ん? ん~、あ、ああ、いや、その?」



 リールゲンはどういうわけか困惑しており、しきりに隣にくそジジイに視線を向けていた。

 意図せずに笑ってはいけない王宮みたいになってしまった。あとでラットのケツは蹴り上げる。



「あぅ、あの、べいる、べいるはなにかわるいことをしてしまったのでしょうか」



「ん? ああいや――おいヴィルランド、聞いていた話と大分違うのではないか?」



「くふふ――ん~? ああいや、そう来たか。いやはや大分嫌われておるのぅ。いやしかし、リールゲン、まさか幼子を怖がらせる暴君になるわけではあるまいな?」



「……これを狙ってやっているのなら大したものだな」



「じゃから一筋縄ではいかんと言ったじゃろうが」



「あのぅ、へいか? きしだんちょうさまぁ?」



 ヴィルランド爺をうるうるとした瞳で見つめると、彼はついに吹き出し大爆笑し始めた。

 女の子が泣いているんだぞ、その反応はいささか失礼ではないだろうか。



「……まったく。良い、結界については知らぬということで良いな」



「ん~? さっききくまではまったくぞんじておりませんでしたぁ」



「そうか」



 嘘はついていない。

 あたしが小首をコテンと傾げていると、リールゲンがため息を吐き、頭を抱えながら手をひらひらとして、もう下がって良いと態度を示した。



 お父様が半笑いで頷き、あたしたちは揃って立ち上がって退出しようとした。

 のだけれど、さっきから何故ここにいるのかわからなかった男が声を上げた。



「陛下、しばしお待ちを――」



「ん~?」



 見たこともない男、今この謁見の間にはあたしたちドラゴニカのほかに、騎士とそれと数人の見慣れない服の男たちがいる。

 誰だとそっと目をやると、お父様もお母さまもそいつらに敵意を向けるような視線を投げており、あいつらが敵であることは理解した。

 するとルミカがそっと耳打ちしてくれる。



「教会関係の貴族です」



「……なるほど」



 あたしは振り返りその男に目をやる。

 その男は下卑た笑みを浮かべ、あたしの脳天から足元を舐めるような視線で見てきた。

 何を測られているのかはわからないけれど、奴はあたしを無力な子どもだと認識したらしい。

 まったく上々である。出来れば釣りたかった程度だったけれど、まさかこんなにも早く釣り上げられるとは思ってもいなかった。



「わたくしも、ドラゴニカに尋ねたいことがありまして、この場をお借りして彼女らに尋ねてもよろしいでしょうか?」



「……ここでやる意味は?」



「それは当然、陛下にもドラゴニカの力というものを把握してほしいからであります」



「それは再三議題に挙がっているが、そのたびにドラゴニカの力はいまだ健在だと結論が出ている」



「ええ、ライラ=ドラゴニカ様、彼女は素晴らしい力の持ち主です。しかしそれは彼女の才能がなせること――ではその娘、ベイル=ドラゴニカ様にその才能があるのか、今最も重要なのはそちらではないでしょうか?」



「……」



「一代だけの才能など、国にとって不要ではないのでしょうか? それにドラゴニカにどれだけの才能があろうともこの国の未来に、竜なぞ訪れない。だからこそ、悠久に続く才ある血筋のみを残しておくべきではないでしょうかね」



 何をどうしてその結論にたどり着いたのか、確信を得たような勝気な顔で声高に演説する男。

 きっとその確信も才能のあるお母さまのおかげで上げに上げられたハードル故だろう。お母さまほどの才がなければ必要ない。そう言いたいのだろう。

 一体どれだけお母さまを恐れているのやら。



 ヴィルランド爺に至っては小声で「才能の話なら、とっくに潰れているのはそっちじゃろうに」と、訝しんでおり、聞こえていたのか、その男が騎士団長様を睨みつけていたが、睨み返されたことで肩を跳ね上げ、視線をあたしに向けて再度勝気な笑みを見せた。



「この幼子の肩に、ドラゴニカを、ひいては国を支えるだけの力があるのか、私たちはそれを疑っているのですよ。ですがもし力があるというのであればそれをぜひ示していただきたい」



「お前本当にアホじゃのぅ」



 騎士団長は本当に黙っていてほしい。

 男に睨まれる騎士団長だったが、耳をほじり指についた耳垢をふっと息を吹いて飛ばしていた。



「……バーミウル、お前の言はわかった。しかしな、力を示すと言ってもまだ6歳の少女だ、どう力を見極めるつもりだ」



「それはわたくしにお任せを――」



 バーミウルと呼ばれた男があたしに近づいてくる。そしてその手を――。

 そこであたしは直感する。この男、以前ルミカが言っていたスキルを持っているのではないだろうか、確か【万象の手(プライムアワー)】と言ったかしら?



 あたしはその直感に、体を捻りバーミウルの手から逃れようとするのだが、その直前にあたしの正面に飛び出してきた影――ルミカがあたしを守るように間に入ってきた。



「無礼者――」



 そうルミカが声を上げた直前、バーミウルが怒りの表情を浮かべ、ルミカの頬に平手を張った。



「――」



「この下女が! 無礼はお前だ!」



 ルミカが頬を打たれ、その体が床に転がる様をあたしはじっと見つめていた。

 頭から血の気が引くのがわかる。両手が勝手に動くのがわかる。この男は紛うことなき敵なのだ、ここがどこだろうが、相手が誰だろうかは関係ない。



「あっ」



「あっ」



「あぁ……」



 誰もが頭を抱えたのが横目に映った。

 しかしあたしが見つめるのは、その勝利を確信している浅く軽い男だけだ。



 男が再度あたしに手を伸ばすその瞬間、空気が破裂するような音とともに乾いたパキンという何かが砕ける音。あたしは拳を収めた(・・・・・)



 バーミウルの体が突如としてあたしに向かって倒れてくる。

 奴が砕けた膝(・・・・)に意識を向けるよりも速く、あたしはバーミウルの首に手を伸ばし、その首を砕くような勢いで掴み上げた。



「おい」



「がっぁぁ」



「お前今誰に手を上げたのかわかっているのかしら」



 メシメシと音を鳴らしながら徐々にバーミウルの首にかける力を強めていく。

 抑えていた戦闘圧を爆発させ、この目の前の敵にだけぶつけるように殺気を溢れさせていく。



「力がどうだの才能がどうだの、さっきから随分と喧しいわね。そんなにそれを示してほしいのならあんたの命を対価に、今ここで示してあげましょうか?」



「や、やめ――」



「黙りなさい、あんたは頷くだけでいいのよ。ドラゴニカの、あたしの糧になることを認め、その血筋も何もかもを差し出しなさい。喜びなさい、ドラゴニカは未だなお、その力でこの国のどてっぱらに嚙みついてやるわ」



 バーミウルの首を握り、爪を立てて奴の首に指を食い込ませながら無理やり頷かせてあたしは嗤う。



「ぐ、あ、がぁぁぁっ!」



「バーミウル、バーミウル、あんたは我らドラゴニカの餌よ。あんたたちが揃えた何もかも、この牙で喰い尽くしてやる。この間あたしを狙って金属の球飛ばしてきた奴に泣きつきなさい。そいつもまとめて殺してやるわ」



 そしてあたしはチラとルミカに目をやる。

 頬は赤くなり、瞳に涙をためている。



 あたしはバーミウルを片手で持ち上げ、一度振り回すとそのまま床に叩きつけ、そのまま押し込んでいく。



「おい、おいバーミウル、お前は今、あたしの妹に手を上げた。あたしより()のお前が、あたしの妹に!」



 ミシミシと音が鳴り、奴の頭が砕けるような感覚と床自体に何か不可思議な壁の存在――あたしは構わずに拳を床に押し進めていく。



「頭が高い!」



 王宮の床を砕き、バーミウルの頭をその床に埋めると首から手を離し、さらに脚を上げて埋まっている頭を踏みつける。



「……」



 あたしは息を吐き体から力を抜くと、脚を上げてしゃちほこのような体勢で動きを止めたバーミウルに目を向けることなく、ルミカに近寄って手を差し出して立ち上がらせ、頬を撫でるようにして抱きしめる。



「あぅわぅ、お嬢様ぁ」



「痛かったわよね、すぐに治療しましょう」



「ちょっと引っ叩かれただけですよぅ」



 それが大問題なのだ。

 あたしはルミカを横抱きにすると、さっさと家に帰ろうと脚を動かす。

 するとそんなあたしたちを見てか、背後から声が聞こえた。



「なっ、なっ、面白いじゃろ?」



「なるほどな、この件に関してはバーミウルに勲章を上げたいほどだ。存外に役に立った」



「うむ。しかしリールゲン、貴様も気をつけろ。あの娘、わしの孫とルミカ嬢に手を出す輩には容赦せんぞ。たとえ貴様と言えど容赦なくその拳を振るってくるじゃろう」



「だろうな。しかし武闘派のドラゴニカか、おっかない限りだな。結界も当たり前に破壊していきやがる」



 どうにも好き勝手言っているこの国の上位者に、あたしはそっと振り返って2人を見つめる。

 けれど2人は好戦的な笑顔を返すだけでそれ以上は読み取れない。



 あたしは肩を竦ませると、そのままルミカを抱えてこの広間から出ていくのだった。

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