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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
3章 災害は竜になりえる者

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ピクニックでの色々

「わぁ~……」



「森ですね~」



「空気もいいし組手がしやすいわね」



「ベルちゃんここまで来て組手するの?」



「外よここ?」



「……ベイルちゃん、君の頭の中戦いのことしかないの? もっと子どもらしくしておくれ。せっかくのピクニックなんだ、もうちょっとこう、はしゃいだりね――」



「やって見せなさいよ家庭教師」



 アルフとラットも誘い、あたしたちはみんなで馬車に乗り、街を出てすぐにある森の中の湖、そこでレジャーシートを広げていた。

 この森は光源の森と呼ばれているらしいが、その由来は誰も知らないそうだ。

 周囲は鬱蒼とした森なのだけれど、今あたしたちがいる湖周辺はちょうどいい芝生で湖の中央には大きな木がなっている。



 そうしてお母さまとお父様がそれぞれ準備をしているのを横目に、ラットが絡んできたから、あたしはそれなら手本を見せろと頼んだところであった。



「え、やってみるって、なにを?」



「ピクニックではしゃぐ子ども」



「俺が?」



「家庭教師でしょ」



「少なくとも子どもらしさを教えるのは家庭教師の仕事じゃねえと思うんだけど!」



「できないの?」



「できらぁ!」



 あたしとルミカ、アルフが見つめる中、ラットが咳ばらいを1つし、雰囲気をどこまでも緩いものにまで下げ、周囲に花が咲いているのではないかというほどアホみたいな空気感で小躍りしてスキップをしながらお父様に近づいていった。



「おっとうさっま~――」



「……」



 お父様が無言で舌打ちをすると、ラットが物悲しそうな顔であたしたちを指差したけれど、そんな彼をそっちのけであたしとアルフはルミカに出してもらった武器を手に互いに見合っていた。



「さあアルフ、少しはあたしについて来られるようになったのでしょうね?」



「が、頑張るよっ」



 アルフの何を武器にしたのかはわからないけれど、その手に持つのは一般的な形状のショートソード、あまり力のあるような武器には見えないけれど、それでもそこいらで買うよりは頑丈そうだ。

 あたしはこの間使った【戦場で生きる者】というスキルで変化したコンバットナイフを両手に持って構えをとる。



 アルフはしっかりとした型のある構え、騎士で教わる剣術であたしとの距離をじりじりと詰める。

 けれど前から思っていたのだけれど、騎士の剣技ってどうにも融通が利かないというか、互いに戦うぞ。って剣を構えるのが前提というか……つまりあたしみたいな我流というか無形に弱い。



 あたしは一歩踏み出し、ナイフを振るう。



 刃と刃が交わり、火花を散らすけれどアルフはあたしの防御を崩そうとお行儀よく剣を振ってきた。

 だからこそ、あたしは一歩引き、片手のナイフで剣を受け止めると、もう片方でナイフの面で地面を這わせるように振り上げて芝生ともども土を巻き上げた。



「わぷっ!」



「敵の攻撃を待つな! 剣を受け身に使うのなら盾を持ちなさい、あたしから目を逸らさない!」



「で、でも土が――」



 巻き上げた土はアルフの視力を奪い、薄目を開けて何とかあたしのナイフをしのいでいた。



「土があるから何? 目が塞がったから命を落としましたであんた納得できるの」



「――」



 むっと顔を浮かべたアルフがあたしに向かって飛び込んできてさっきまでのお行儀のよい剣筋ではなく、一撃一撃に全力を込めて剣を振り始めた。

 さすが男の子だ、ナイフで受けると手がビリビリする。



「やぁぁぁ!」



「――っ!」



 片方のナイフが弾き飛ばされ、あたしは驚く。しかしアルフがナイフを片方弾いただけでどや顔を浮かべて戦闘の気配をひそめたから、あたしはすぐに彼との距離を詰め、ナイフが弾かれた手の拳をアルフの腹部に添える。



「【闘気開放】【集気法】――」



 くっつくほどの距離で、アルフの腹部に拳を添えたまま、そのまま勢いよく腰を回してのワンインチパンチ。



「ぐえぇぇっ!」



「油断しない。武器がなくても殺す手段はいくらでもある」



 吹っ飛んで行ったアルフが嘔吐きながらふらふらとした足取りで剣を支えに立ち上がり、涙目を浮かべて呼吸を荒げていた。



 しかしすぐに呼吸を整えたアルフが再度駆け出してきた。



「わ、わぁぁ!」



 その勢いのある逆袈裟に、得物を手放しはしなかったけれど腕を大きく弾かれてしまい胴ががら空きになる。

 アルフはそのまま袈裟切りに剣を振り下ろしてきたから、あたしは瞬時に腕を畳み、スキルを発動する。



「【金剛集気】」



 剣を腕で防ぐと、アルフがいっぱいいっぱい頬を膨らませているのが見えた。

 この子はあたしに切られろとでも言うつもりなのだろうか。



 そしてあたしはナイフを投げ捨て、両こぶしをアルフの腹部に添えると彼がブンブンブンと首を横に振っていたけれどもう遅い。



 あたしが向こうにいた時も使っていた()



「『竜按(りゅうあん)』」



「ぴ――」



 可愛らしい鳴き声を最後に、アルフがぶっ飛んでいき、直線上の木に激突してぱたりと気を失ったのが見えた。



 あたしは満足げに息を吐くと、さっきからこちらを窺っていたお父様とラットが口を開けたまま動きを止めていた。



「……ねえ副団長、俺の聞き間違いじゃなければベイルちゃんが剣を防いだ時、金属音みたいな音したんですけれど、あの子の体って鋼鉄で出来ているんですか?」



「いやぁ、うん……なにあれ? ルミカ」



「お嬢様はスキルに、生命力や闘気を魔力以外のエネルギーに変えられるので、それを使って固くなった。です」



「そっかぁ」



 お父様がルミカを撫でているのを横目に、ラットが気を失っているアルフを指差すのが見えた。



「あれアルフ大丈夫なん?」



「いつも似たようなの喰らっているのですぐに目を覚ましますよぅ」



「……あいついい騎士になるわ」

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