彩る記憶は灰色で
痛い、痛い。
一体何が起きたのだろうか。
周囲には身を焼くほどの赤、赤、赤――。身の毛立つ絶叫に、天を穿つほどの慟哭。その場にいる誰も彼もがその理不尽に、その無力感に、絶望に色を付けて世界を眺めていた。
あたしは、なにをしていたっけ?
ああそうだ、ママとパパ、それと……。
4人で遊びに出かけたんだったか。まだ世界に彩があった時、目に見えるすべてが優しくて、目に映るすべての色が輝いていて、あたしは幸せだった。
ママは少し過保護なところがあったけれど、あたしが泥まみれになって帰ってきても優しい顔で微笑んでくれてそのまま撫でてくれた。
パパは大雑把なところがあるけれど、どんなにお仕事が大変でも必ず一日に一回はあたしと――を抱きしめてくれて、今日の幸せを共有してくれた。
――はフワフワで、もちもちしていて、ママとパパの腕の中で微笑んでいるだけで、あたしの頬も自然と綻んだ。この子のために良いお姉ちゃんになろうと決意していた。でも――。
あたしは、あたしを抱えるように抱きしめる2本の腕をキュッと体に寄せた。
ママとパパの匂い、けれどその腕は冷たく、滴る赤は終わりを告げていて、あたしは腕を抱きながら笑っていた。
なんでこんなに熱いのだろう。目に見えるすべてが赤く、体を、心を燃やし尽くすような熱。
あたしを囲む赤色もあたしたち以外を燃やし、肉を焼くにおいが鼻をつく。
赤色が全てを飲み込んでいく。
ママもパパも、――も。
あたしは笑っている。
もう動かなくなった家族に抱きしめられ、あたしから流れる赤が目を覆い、世界中が赤く見えたから、この色がきっとあたしからすべてを奪ったんだと。
もう見たくない、もうこの色は――。
「あはは」
あたしが最後に映した色、世界が染まる理不尽の色――あたしはその色から、目をそらした。
「ハハ――」
世界が灰色に変わる。
命の色も、命を終わらせる色も、世界を覆う色も、大好きだった優しいその色も……。
「ハ、ハハ、あはは」
そうだ、あたしは、あたしが望んで世界から色をなくした。
灰色の世界に、閉じこもってしまった。
「アハハ――は?」
世界の色が切り替わるその刹那、あたしの目にはその牙が、爪があたしの世界を壊す災厄が、あたしの色を飲み込んで、その体を真っ赤に、すべてを壊す災厄に変わっていく。
伸びる牙、大きな口を開け、あたしを呑み、かみ砕こうとあたしの視界を奪っていく。
「ああそうか、あたしはこの日、喰われてしまったんだ」
あたしを抱える2本の腕をそっと撫でる。
「ごめんね、ごめんなさい、あたしが、あたしが我儘を言ったから」
ママに抱かれたもう喋ることのない小さな命だったもの。
もっといろいろ知ってほしかった、もっと、色々見てほしかった。あたしがあなたの手を引いて、たくさん甘やかして、たくさん優しくして、たくさん――。
「ごめんね、――」




