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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
第2章 その竜に牙をむく者

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色とりどりの喧嘩作法

「――」



 呆れるヴィルランド爺を横目にアルフと拳を合わせていたところだったけれど、私は瞬時にルミカとアルフの頭を抱き寄せ、脚を思い切り踏み抜いて大地を割り、浮かび上がった礫を蹴り上げた。

 私が蹴り上げた礫が散銃のようにあちこちに広がっていくと、途中で金属がこすれるような音が鳴り、礫に弾かれて大地に何かが着弾した。

 私ははチラとそれに目をやるのだけれど、パチンコ玉のような、ベアリング弾というか、金属というよりは合金、明らかに人の手で作られていない類の弾丸が埋まっていた。



「ルミカ、アルフ、頭を上げちゃだめよ」



「いやベイルちゃん、君もね!」



「いったいどこから――」



 お父様が驚き、辺りを見渡す中、私の視線は現在いるふ頭からそれなりに遠い反対側――王宮と対峙するようにそびえている教会が管理する港、教会関係者しか使うことのないその場所で光を照らす役目を持っている灯台に目をやった。



「あそこかのぅ」



「今朝からずっと見られていたわよ」



「……君知っていて外に出たの? 俺気が付かなかったんだけど」



だから(・・・)外に出たのよ」



「ベイル、頼むから自分を囮に使うような真似はしないでくれ」



 お父様のひどく心配げな顔を横目に、私はルミカに目をやる。



「ルミカ、わかる?」



「う~んぅ――ダメです、距離がありすぎますよぅ」



 指で輪っかを作ったルミカが灯台の方に目をやったけれど、ここからでは判断着かないみたいで、肩を落としたのがわかる。



 そしてアルフの頭を抱えて顔をあげさせないようにしながら、私は周りに目をやるのだけれど、さっき襲い掛かってきた連中たちの脳天にはすでに弾丸が撃ち込まれており、全員が絶命していた。



「あ、あの、ベルちゃん――」



「アルフ、まだしばらくそうしていて。ルミカも、いいわね?」



 2人の返事を聞きながら、私はありったけの殺気を体に纏わせ、灯台の、まだ姿を見せない強者を睨みつける。

 しかし、突然頭に手を乗せられ、私の目はその手の主を追うのだけれど、ヴィルランド爺が肩をすくませて微笑んでいた。



「こ~れ、そういうのはわしらの役目じゃよ――」



 途端、ルミカがスペルで取り出した大剣を引き抜いたヴィルランド爺――騎士団長、ヴィルランド=ロイレイブンが額に青筋を浮かべて遠くを睨みつけた。



「わしを精霊の騎士王(・・・・・・)だと知っての狼藉か。もし自覚があるというのなら随分と舐めたことをしてくれるのぅ」



 ビリビリと空気が揺れる。波が揺れるのを忘れたかのようにシンと凪いでいる。風は止み、まるでこの老人にひれ伏すように世界が、あらゆる事象が時を止めている。



 お父様もラットも、同じく応援にやってきた騎士たちも額から脂汗を流しながら、騎士団長の背を控えめに見上げている。



「――」



 しかし、しかし――はき違えている。

 この老人も、ドラゴニカを守ろうとする誰もかれも。



 私はルミカとアルフから手を離し、一歩を踏み出して騎士団長の隣に並び立つ。それと同時に大きく口を開ける。



「がおぉぉぉぉっ!」



「むっ」



「私はここだぁ! 喧嘩なら買ってやるわ! その首洗って覚悟していなさい!」



 私は灯台に背を向けると、そのまま歩き出してルミカとアルフの手を取るのだけれど、ルミカがひどく呆れており、ため息をついたのが見えた。

 これは性分だ。こればかりは譲れない。



「お嬢様ぁ、立場を自覚してくださいませ」



「しているわよ。でもあいつが喧嘩を売っているのは私、誰にもそれを曲げさせはしないわ」



「……ベルちゃん頼むから俺が強くなるまでもう少し待っていてよぅ」



 ルミカとアルフの反応を耳に残しながらも、私は歩みを止めることはしない。

 やっと色づいてきた私の世界(・・)だ。何物にも侵させるわけにはいかない。



「わしの見せ場じゃったのにのぅ」



「……いや団長、止めてくださいよ。俺あの子の護衛しているんですけど」



「すまんラット、ここまで好戦的だったとは」



「いやぁ、ありゃあ好戦的というか戦いの矜持をよく理解しておる者の言葉じゃよ。まさか幼子にけんか相手を掻っ攫うなと言われるとは思わなんだ」



「……やっぱ騎士団に入ってもらおうかな。俺の目の届く場所にいてほしい」



「ライラ様とベイルちゃんが絶対に拒否しますよ」



「だよなぁ」



 そんなお父様の声を聞きながら、私は未だに外れない視線に意識を忍ばせながら帰路へと着くのだった。

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