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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
第2章 その竜に牙をむく者

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隠し通すには目立ちすぎて

「……ベイル?」



「こりゃあまた、随分と豪快にやったのぅ」



 ラットが呼んだ応援には何故かお父様とヴィルランド爺がおり、この程度の相手に騎士団長と副団長が出張らなくともとあたしはラットを睨むのだけれど、彼は両手を頭に添えて口笛を吹くなんてわかりやすく意識をそらそうとしていた。



「ラット様に倒してもらいましたぁ」



「嘘つけ、騎士団はこんな戦い方はせん。どこの戦場で育ったんじゃお主? 一撃で足を砕き、機動力を最初に削ぎ、動けなくなった者には的確に急所を狙い撃つ。敵ばかりの戦場でなければ培われない戦い方じゃよ」



「……うちの家で育った子ですよ」



「ならばこれが素質か? 恐ろしい子じゃのう」



 あたしは期待を込めたキラッキラな瞳を向けてくるヴィルランド爺から顔をそらし、ラットのように口笛を吹いてごまかす。



「それでお主、武器はどこじゃ? 隠し持っておったのかの?」



「いえ、ライラからも危ないと言われていましたので、武器の所持は禁止にしています。今朝隠し持っているなんてことはなかったはずですし、どこかで購入? いや、そんな金は渡していないですし」



「ラット様から借りましたぁ」



「武器をか、金をか? どちらにせよそれはあり得んよ、ラットの武器ではああいった傷にはならん。短い武器じゃな、ナイフにしては鋭すぎる。この辺りで買えるものとは質が違う」



 あたしが舌打ちをすると、突然ラットに肩をつかまれた。



「いや、一々俺の責任にしようとするの止めてくれない? もう全部報告するんだから、無駄な抵抗はやめよう?」



「時間さえ稼げばとりあえずこの場で叱られることはないわ。早く帰ってお風呂入りたい」



「副団長ぅ! どんな教育しているんっすか!」



「……いや、うん、ごめんね」



 責められるような雰囲気に、あたしは癒しを求めてルミカとアルフを撫でこの場をどう切り抜けるかを思案するけれど、ラットの言う通り別に隠すことではないのは確かだ。

 しいて言うのなら、ルミカのスペルが人に知られるのがまずいというところだろうが……。

 するとそのルミカがヴィルランド爺に近づき、彼に手を添えた。



「『天上に坐する剣匠(ヴィヴィラブリジッド)』」



 その瞬間、彼女のそばにひどく巨大な剣――2メートルを超えるその剣はあまりにも武骨で、それでいて冷たい。でも剣からは世界の意志というべきか、この世界の事象、あたしの目にはさまざまな色が内包された剣が地へと刺さった。



「スキル【精霊を統べる者】を武器に変えました」



「……スキルの武装化。こっちも厄介な力を持っておったか」



「……ベイルが口を閉ざすはずです。ルミカを守っていたのか」



 ヴィルランド爺が武器を手にした瞬間、あたりにはありえないほどの圧が奔っていき、空気がビリビリと揺れている。

 あたしは口角が吊り上がりそうになるのを耐え、指に力を込めて骨を鳴らす。



「ベイルちゃん? この状況で騎士団長に喧嘩売ろうとしないでくれる? 俺立っているのもやっとなんだけれど」



「いつか跪かせるわ」



 ラットの声で、戦闘モードに寄っていた思考を引き戻すことが出来た。

 突然そんな甘美な圧を放たれると、つい昔を思い出して血が騒いでしまう。



「ルミカ嬢に関しては把握した。彼女のスペルのことはわしらだけに留めておくぞい」



「助かります。ルミカが公に護衛対処になったらベイルが暴走しかねないですから」



「しかしベイル嬢に関してはもう1つ」



「え、まだ何か?」



「ルミカ嬢、スキルを武器に変えると言ったかのう? 見る限り、2つほど武器が使われていたようじゃが……アルフ、お前のスキルはいくつだったかのぅ?」



「え、3つ……です。しかもそれは」



「ロイレイブンの家柄でのスキルじゃの。ベイル嬢もドラゴニカのスキルがあるじゃろうが――どうにもイメージと合致せん。ライラと同じようなスキルじゃろうからな、こんな獰猛な獣の牙のような武器にはならんはずじゃ。して、ベイル嬢、スキルはいくつじゃ?」



「……知りませんわ。3歳の時に教会には行っていませんもの」



「ああそういえば、スキルの確認はしていなかったね。時期も悪いし、確認する術はないのだったか」



「あるじゃろ」



「え? どこですか」



「ルミカ嬢、わしのスキルを言い当てたな?」



「あっ」



 ルミカが顔をそらした。

 ヴィルランド爺がにやけ顔でルミカに顔を寄せているけれど、さすが騎士団長、多少の違和感で気が付くか。



「ルミカ、人のスキルがわかるのかい?」



「え~っと」



 ルミカが指をちょろちょろと動かして言いよどんでいる。

 これ以上隠すことは不可能だろう。



「……はい」



 ルミカが観念したように息を吐き、そして指で丸を作ってお父様とヴィルランド爺を覗き見ていた。

 さすがに【神眼】とは言わないだろうけれど、どうするのだろうか。



「スキル【妖精の目(グリムアイ)】その人の持つスキルの効果などはわかりませんが、名前と軌跡を把握することが出来ます」



 下位互換のスキルが存在しているのかしら? あの子確か平気でスキルの効果を話していたわよね。



「……のうエイルバーグ」



「いやです」



「ドラゴニカずるいじゃろ。片や戦いの天才、片や有用なユニークスキル――それでルミカ嬢。ベイル嬢のスキルは如何ほどじゃ?」



「え~っとですね」



 顔をそらしてあたしに助けを求めるような視線を向けてきたルミカが可愛く、手を伸ばして撫でていると、彼女はあきらめたように肩をすくませた。



「たくさん。とだけ」



「アルフ、隣立つにはまだまだ遠いのぅ」



「あぅ」



「あっいえ、その、アルフ様、ベイルお嬢様と一緒に特訓している影響か、初めて出会った時よりスキル4つくらい増えていますから」



「お主らどんな訓練をしておるんじゃ」



 ついには頭を抱えて肩を落としたヴィルランド爺に、あたしとアルフはしてやったりと笑顔を浮かべ、2人で拳を合わせた。

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