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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
第2章 その竜に牙をむく者

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彩竜の喧嘩殺法

「――って、散々忠告されていたのに、よく外に遊びに行きたいなんて言えるね君」



「ずっと屋敷の中にこもっていたらカビが生えるわ」



 お父様とグレイランドさんと話をした数日後、やっとお父様から許可をもらい、屋敷の外に出ることを許されたから、あたしはルミカとアルフ、そしてラットを連れて王都の街並みを見て回っている。

 のだけれど、さっきからラットが文句ばかり口にする。

 まあこうして護衛についてくれているから、何かあったら困るというのは重々承知している。けれどいつまでも軟禁状態を続けているのも退屈だし、それともう1つ確認したいこともあった。



「こうして俺にも声をかけてくれたからよかったけれどね、でも1つ文句を言わせてもらえない?」



「なによ」



「馬車ぁ、せめて馬車使わない? なんで徒歩で街歩きしているのさ」



「なんでって……馬車なんかに乗っていたら逃げ道がふさがるし、何より視界が悪い。あたしとあんたはともかく、ルミカとアルフに流れ弾が飛んだらどうするつもりよ」



「要護衛対象きみぃ!」



「あたしよりこの2人を守りなさい。いいわね」



 顔を覆うラットを横目に映していると、ルミカがクスクスと笑い声をあげた。相変わらず可愛らしく笑う子ね。とにかく撫でてあげなくちゃ。



「わぅわふ」



「ベルちゃんがすっごい保護者顔してる」



「こういう顔をした時のお嬢様はたくさん褒めてくれますよぅ。アルフ様もどうですかぁ?」



「え? う~んと、この間、苦手なお野菜食べられるようになったよ」



「偉いじゃない。アルフは苦いの苦手だったものね、ちゃんと栄養とってしっかり大きくなるのよ」



 アルフを撫でてあげると、とてもうれしそうにしており、これからもたくさん食べるよ。と、見えないしっぽが見えるかのように小動物な空気感を出していた。

 すると思案顔を浮かべていたラットが突然かまととぶったように体をくねらせた。



「ラットぉ、この間副団長に、おっ今日はサボってないなって褒められちゃ――ぐぇっ!」



 腹立つ物言いのラットのもも辺りに蹴りを放ち、そのまま舗装された道に跪かせた。



「あッ?」



「すんませんした」



 そのまま土下座して謝罪するラットに舌打ちをして、あたしはルミカとアルフの手を取って街中――活気づいている市場に足を踏み入れようとする。



「ちょいちょいちょい、人が多すぎるって」



「こんな人ごみの中で仕掛けてくるやつがいるとしたらそれはただのアホよ」



「いやそうかもだけど、中にはそういうやつもいるんだって」



「でしょうね、でもそういうやつは大抵捨て駒の雑魚よ。使える奴だったら手元に置いておくでしょ」



「きみ随分暗殺側の事情に明るいね。命狙われたことでもある――いや現在進行でか」



 わざとらしく肩を竦めるラットを無視して、あたしは市場を見渡す。

 王都・エレルアは港から大きくなった都市であり、海に面していることから漁業が盛んな街だ。

 本来なら海に面した街に王宮など構えるなんて正気の沙汰ではないけれど、この国には竜とその巫女がおり、さらには王都の教会の秘蔵、聖女という存在がいるために、防衛に関してはどの国よりも優れていると評価されているらしい。



 ちなみにドラゴニカは教会とあまり仲が良くない。

 なぜなら神の威光を説く教会にとって、災厄となり得る竜の存在は認められないからだ。

 つまり襲ってくるのなら教会か、もしくは教会に傾いている貴族か――あたしはそっとさっきからこちらを窺っている数人に意識を向ける。



「ほらルミカ、アルフ、あたしの手を離しちゃだめよ」



 2人の返事を聞き、市場へと足を踏み入れると、渋々といった風にラットがついてきてくれ、彼に目線を一度やる。

 するとラットは顔を引きつらせており、周囲に敵がいることにも気が付いているのだろう。

 さすがお父様が選んだ護衛だ、やはりそこそこに優秀だ。



「お母さまからお小遣いももらっているし、少し食べ歩きもしましょう」



「俺、こういうの初めて」



「なら体験しておきなさい。案外楽しいものよ」



「ベルちゃんはしたことがあるの?」



「……内緒よ」



 本当は前の世界での話だけれど、ここでそういう話をしても仕方がないし、こっちで隠れて食べ歩きをしたということにしておく。

 アルフが小さく笑い、あたしと同じように口元に人差し指を立てていた。



 そうしてしばらくの間買い食いを楽しんでいると、背後の何物たちがせわしなく動き始めていた。



「ベイルちゃん――」



「ルミカ」



「はい、あまり無茶はしないでくださいねお嬢様」



「ん」



「『天上に坐する剣匠(ヴィヴィラブリジッド)』」



 ルミカからメリケンサックを受け取ると、そのまま市場を抜け、ふ頭にまで足を運ぶ。

 その一角は人影が少なく、何かするのならうってつけの場所であり、あたしたちを追ってきた何者かがついに目の前に体をさらした。



「わざわざ襲われそうな場所に移動しなくても」



「ほかの人が巻き込まれたらどうするのよ」



 ラットが呆れながら言うが、しっかりと背中にアルフを置いており、そのアルフは不安そうな顔をしてあたしの顔を窺っていた。



「大丈夫よ。アルフ、あなたはまだ戦わなくていい。でもしっかりとみていなさい。力の強さだけなら案外簡単に手に入れられるのよ」



 あたしはメリケンを拳に装着し、強気な顔をした大人たちをにらみつける。

 その瞬間、彼らはただの子どもを狙いに来ただけだったはずなのに、あたしの視線で、殺気で気が付いてしまったのだろう。

 途端に額から脂汗を流し、顔を引きつらせていた。



「――」



 猶予など与えない。

 あたしは一足で敵との間合いを詰め、目の前にいる暴漢に一撃。



 あたしの身長から拳は見事に男の急所を打ち抜き、痛みに呼吸が止まるかのように男が動きを止め、そのまま白目向いてぶっ倒れた。



「おぅふ……」



「あぅ」



 アルフとラットがきゅっと太ももを締めたのがわかったけれど、今はそれどころではなく、あたしが攻撃をしたことで焦りを見せた暴漢たちが一斉に飛び掛かってきた。



 数は5人――あたしは一番近くにいた暴漢の真下へ足を進ませ、そのまま飛び上がって顎を打ち抜いたのち、倒れ掛かる男の胴体にさらにワンツーパンチ、1人撃退するとすぐにナイフを持った男が背後から攻撃を繰り出してきた。



「遅い」



 ナイフを持った手の手首をメリケンでピンポイントで打ち抜いてへし折ると、そのまま反転し片足で敵の足を踏みつけてロック、空いている脚で前蹴りを放って固定した脚の膝を割る。

 男が痛みに声を上げて膝を中心に体を丸めたところを殴って吹っ飛ばす。



「ルミカ!」



 あたしはメリケンをルミカに投げて返すと、すぐにルミカが再度スペルを唱えた。



「『天上に坐する剣匠(ヴィヴィラブリジッド)』」



 そして新たに現れた2本の武器をあたしに投げてくれた。

 そして今回の武器は刃にギザギザがついているナイフ――つまりコンバットナイフだ。



 メリケンは闘気解放のスキルが武器化したものらしいがこれは何のスキルやら、あとでルミカに聞いてみることを決めながら、コンバットナイフを手に、あたしは駆け出す。



 敵の男が突っ込んできたあたしに驚いたけれど、構わず彼の両足にナイフを刺し、そのまま自分の体を持ち上げて上下を反転――敵に背中を見せる形になるけれど、ナイフを引き抜いて飛び上がり、天に脚が向いているから彼の脳天に踵を叩き込んだ。



 そのまま空中で体を反転させると、倒れ掛かる男の体を足場にさらに高く飛び上がり、恐怖に顔をゆがめて固まっている別の敵へ空中から強襲をかけ、その両肩にナイフを深々と差し込んだ後、大地へと降り立ち、回し蹴りで足を砕き、バランスを失った敵が倒れてくるから、タイミングよく頭をつかみ、膝を顎に叩き込んだ。



 4人目の男が倒れたところで、最後の1人が恐怖に体を震わせながらガチガチと歯を鳴らし、腰の細剣をあたしに向けてきたから、笑顔で対峙する。



「……6歳の幼子が浮かべちゃダメな顔なんだわそれ」



「……あれ、本当に怖いからね~」



「アルフ様も間近で受けてましたものね」



 すでに戦闘が続行できる精神状態ではない。

 まあ1人は事情聴取のために残しておきたかったからちょうどいいか。



「はいおしまい」



「君のその戦闘技術はどこで習ったものなの?」



「我流」



「恐ろしすぎる」



 計5人を再起不能にし、1人は無傷。あたしにしてはよくやったほうだろう。

 ルミカに武器を返すと、アルフが不思議そうな顔で見ていた。



「ルミちゃんのスペルってさ、何かを武器に変えるの?」



「え、ええはい、スキルを武器に変えられますよ」



「なんだそのぶっ壊れスペル。じゃあなに? ルミカちゃんと一緒にいれば武器買わなくていいの?」



「はい。ただ作り出せる武器は原則1人1つです。お嬢様が武器を返してくれたのはそういう理由です」



「いや、それでも破格……いや待って、ベイルちゃん、君スキルいくつだ?」



「さあ? 確認していないもの」



「大量。とだけ言っておきます。ただ教会に知られるとまた厄介なことになりますから、出来ればこのことは」



 ラットが残った男に目をやるのだけれど、目が虚ろでほとんど気を失っており、話は聞かれていなかったのを確認し、彼が安堵の息を吐いた。



「ルミカちゃんのスペルとベイルちゃんのスキルの数、副団長は知っている?」



「そういえば話したことはないわね」



「言っていないです。あの時はごたごたしていたので」



「……ああうん、俺のせいでごめんね」



 シュンとするアルフを撫で、あたしは手を叩いた。



「ほら、とりあえずこいつらを連行しましょう」



「そうだな。ちょっと待ってて――」



 そう言ってラットが指笛を吹いた。するとどこからともなく鳥が飛んできて、小さな紙に何事かを書き綴り、鳥の足の小袋に紙を入れて飛ばした。



「応援が来るからちょっと大人しくしててね」



「そう――アルフ、暇だし組手するわよ」



「う、うん! お願いします!」



「元気有り余ってんなぁ」



 そんなラットの呆れ声を聞きながら、あたしたちは組手を始める。

 しかし末端がこの程度か。なら教会の方は今のところ警戒する必要はないか。

 警戒するとしたら――。



 あたしはアルフの攻撃をさばきながら、街の奥の奥、港から離れた方角に意識を飛ばし、不愉快な気配を一蹴するのだった。

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