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色づく世界の首狩りドラゴン  作者: 筆々
第2章 その竜に牙をむく者

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色づく王都の日常風景

「うりゃぁぁ!」



「ふん! ふん!」



 ルミカに出してもらったメリケンサックを手に、アルフとの剣戟を繰り広げている。



「踏み込みが浅い。もっと剣に殺気を込めなさい」



「は、はい! おりゃぁぁ!」



「気合が足りん!」



「ぶえぇぇ!」



 アルフを吹っ飛ばし、私は一息つく。



 王都への引っ越しも終え、しばらく時間が経ち落ち着いたころ、今日も今日とて家にやってきたアルフと訓練をしている。

 そしてルミカがタオルと飲み物を手にやってきたから彼女を撫で、飲み物を受け取って喉を潤すのだけれど、この屋敷に来てから雇われた現役騎士の家庭教師――ラット=ウィンブルスが引き気味に私たちを見ていた。



「……副団長は俺に一体何を教えろというんだ。もう必要ないだろこれ」



「失礼ね。雇われている以上何か教えなさいよ、必殺技とか」



「ねえけどそんなん!」



 私は肩を竦ませると、大の字で寝そべりしくしく泣いているアルフに近づき、彼を起き上がらせて体に付いた砂ぼこりをサッサとはらう。



「う~今日もベルちゃんに一太刀もかすりもしなかった」



「あんたもっとよく相手を視なさい。剣振っている最中に目をつぶらない。はい、素振り200回」



「は、はい!」



 剣を振り始めるアルフを横目に映していると、ルミカがそっとラットを見ていた。



「……家庭教師」



「止めてルミカちゃん! 現状俺何もしていないけれど、ちゃんと役立つから!」



 まあ確かに、ルミカの言いたいことはわかる。

 ラットが屋敷に来た最初の日、私は彼の実力を知りたかったから特大の殺気をぶつけ、怯んだところにボディーブローを叩きこんだところ、お父様に叱られ、さらに彼からは教えることはもうないと告げられ、それなら座学を。と、言われたけれど、正直この国の歴史、魔法のあれこれスキルのあれこれ、ルミカに聞いた方が早い。

 ルミカもそのつもりだったのか、授業が始まる前にこの女神様がラッドが教えようとした箇所をすべて私に提示してきたために、それすらも教えられないという状況になり、あまりにも彼を不憫に思ったお父様が絞り出すように、「あ~……何か教えられることがあったら教えてあげてくれ。それまで雇うから」と、顔を逸らして言ったのだった。



「というかベイルちゃんもだけれど、ルミカちゃんも大概だよね。君本当に6歳か?」



 ルミカが勝気に胸を張る姿が可愛らしく頭を撫でてやると、ラットが呆れたような顔を向けてきた。



「なによ」



「もっと俺たちにも優しくしておくれぇ。君の優しさ現状ルミカちゃんとアルフにガン振りされてるからね」



「それならアルフと一緒に剣の1つでも振りなさい。あんた現役の騎士でしょ、アルフに情けない姿見せるんじゃないわよ」



 剣を真剣に振るアルフに目をやったラットがばつの悪そうに頭を掻き、そして彼の隣で剣を振り始めた。

 私がタオルで体を拭っていると、ルミカがどこかうずうずした顔――ウサギのような口で私を見ており、視線を返す。



「ベルお嬢様が充実していて、僕も嬉しいですよぅ」



「そう、ルミカが楽しいなら私も嬉しいわ」



 すると相変わらず呆れた顔のラットだったが剣を振りながら、途端に考え込むようなしぐさをした。

 真面目に考えることも出来たのかと感心するけれど、彼は言いづらそうにしながらも口を開いた。



「そういえばベイルちゃん、どうしてドラゴニカが7歳まで王都で暮らさないか知っているか?」



「ドラゴニカの拳を血で染めないため」



「違うけど。何でそんな物騒なことを言うんだ君は」



 なら他の理由は思いつかない。

 わざわざそんなに離れていない領地で暮らすのも意味がわからないし、そもそも来ようと思えばあそこから1人でも来られる。

 では何故か――やはり思いつかない。

 いや、ドラゴニカを守るためとかって言っていたっけ。一体何からなのか、私はそれを聞いたことがなかった。



「……ドラゴニカはね、やはり特殊な立ち位置だ。国の伝統であり最終兵器、いずれ来る災厄に備えられた我らの希望――だけれど、そんな来るかもわからないものに権力を与え続けるのは間違っていると声を上げる者もいる。だからこそ、君たちはギフトを得るその日まで守られるべき。だったんだけれどね」



 ラットが何か文句ありげな顔を向けてくる。一体私が何をしたというのか、誠心誠意生きているだけだ。



「君の力は従来の子どもより圧倒的に優れている。さっきアルフにも使っていた武器だが、あれは何だ? それに戦い方、貴族とは思えない荒々しさだ」



「喧嘩殺法」



「チンピラかお前は!」



 ラットが頭を抱える。つまり何が言いたいのだろうか。私は彼を軽く睨み結論を促すと、肩を竦めたラットが重々しい空気で口を開いた。



「ドラゴニカはいつ命を狙われるのかわからない。本当ならギフトを得てさらに強くなってからベイルちゃんは自由に動き回るべきだったんだけれど……」



「イヤよ退屈だし」



「だろうね。まあつまり俺が言いたいのは、どこかに用がある時も必ず誰かに伝えておく。俺がいるのなら俺と行動する。これを守ってくれ」



 別に断っても良いけれど、ここまで釘を刺されるということはお父様とお母様も絡んでいるだろうし、何より毎回厄介な誰かを差し向けられるのだろう。

 それならこれは厚意だ、受け取らないのも失礼だろう。



「わかりましたわ。わたくしはまだまだ子どもですもの、大人の言うことには従いますわ」



「……俺はその喋り方の君を信用していないんだけれどね」



「失礼な、これでも一応弁えているのよ。それに勝手な行動をとって被害を受けるのは私だけじゃないもの。ルミカにもアルフにも被害が及ぶ可能性がある。私はそんな選択はしないわ」



「すごいな、途端に信用できるな」



 私のことを一体なんだと思っているのか問い詰めたかったが、剣を振っていたアルフが鼻を鳴らし、意気揚々と口を開いた。



「ベルちゃんもルミちゃんも、俺が騎士として守るから大丈夫!」



「――」



 私はルミカと顔を見合わせて笑うと、彼に近寄り頭を撫でてやる。

 根拠はないだろうけれど、騎士として剣を振るう理由、そして騎士になるためにちゃんと考えて持ってくれた目標、私はそれが素直に嬉しかった。



「うん、それじゃあ期待しているわよ未来の騎士様」



「――うん!」



「ほれほれアルフ、それならまず素振り終わらせろな」



 私から離れていったアルフが再度剣を振り始めたのを横目に、あの子の成長を楽しみに思いつつ、私は私の脅威になるだろう誰かにも想いを馳せるのだった。

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