今日から広がる彩り
「何でうちの騎士たちは涙ぐんでいるんじゃ?」
「さあ?」
王都に馬車が着き、こちらでお父様が使っていた屋敷――本来ドラゴニカが住む屋敷に荷台から荷を運んでいると、お父様とヴィルランド爺が首を傾げていた。
私はルミカとアルフの手を引き、2人が運びやすい荷物を見繕って手渡してやる。
そんな私たちを見て、ヴィルランド爺がさらに困惑を深めたようだった。
「馬車で何かあったかのぅ」
「父上――騎士団長、それに副団長」
「ん~? どうかしたかの」
「……グレイ、もしかしてまたうちの娘が何か」
「いや、とんでもない。ベイル嬢は、とても良い子だ」
うんうん頷いているアルフのお父さんに、お父様たちがさらに首を体ごと傾けていた。
何だかこっぱずかしい視線に、私は早くこの場所から退散しようと荷物を持って屋敷に足を進めた。
私とルミカ、アルフで屋敷に入ると、エントランスで天井までゆっくりと辺りを見渡すように視線を上げていく。
するとアルフが感心したように息を吐いた。
「ドラゴニカって、意外と質素というか、絢爛ではないよね」
「意外と?」
「あっ、えっと、別に悪く言ったとかじゃなくて」
「いい、わかっているから。それでどういう意味?」
「……え~っと、ドラゴニカって結構派手なイメージが持たれていてね。だから屋敷の中に入ってびっくりしたというかその」
まだまだ私の顔を窺うアルフに肩を竦ませ、彼の頭を撫でてやる。すると彼は懐っこい顔で顔を赤らめており、この子もこの子で慣れてくると甘えてくるタイプなのだろうなと察せられた。
しかしドラゴニカは派手好き。ね。他の人々にもそう思われているのかしらね。
私がそんな考えを巡らせていると、背後からそっと抱き締められる。後ろに首を回すとお母様がくっ付いて来ていた。
「他の人たちから見たら、確かにドラゴニカは派手に映っているかもですね」
「そうなんですか?」
「ええ」
お母様が答えながら、その顔をそっとアルフに向けた。
するとアルフは顔を伏せてしまい、体をもじもじとさせながら目を泳がせている。
私が何だと思っていると、彼が口を開いた。
「あぅ……ごめんなさい」
「……」
アルフの突然の謝罪に私が首を傾げると、彼をジッと見つめていたお母様が微笑みながら頷き、顔を伏せる彼の頭にそっと手を置いた。
「一体、ベイルちゃんはどんな魔法を使ったのかしらね」
「暴力」
私がしたり顔で言い切ると、ルミカとお母様が苦笑いを浮かべた。
そんなお母様が騎士の人が運んでいる箱を指差す。
「ドラゴニカが派手だと思われているのは、公の場ではそれなりに着飾るから。ですね」
「どうしてそんなことを?」
「ドラゴニカは特殊な立場です。私たちのことを貴族や王宮の者と認めない者もいます。だから――派手に着飾るのです」
「つまり……威嚇?」
お母様がクスクスと声を漏らし、その通りだと話してくれた。
しかしそんな理由なら私には必要ないな。
「ならこれからは派手にする必要はないですね」
「あらどうして?」
「威嚇するだけならもっといい物を着られるので」
そう言って私は全身に殺意を纏う。
豪華な服より、この方がずっとわかりやすい。威嚇するだけならこれで事足りる。
「……それならベイルちゃんには、似合わないドレスを着させるより、うんと似合うドレスを用意しなくちゃね」
「はい、ありがとうお母様」
そう言ってお母様が手を振ってお父様たちの方に戻っていった。
私たちも手伝わなければと移動しようとすると、ルミカに手を握られる。
「ん? どうかした」
「楽しいこと、あるといいですね」
「そうね、ちゃんとついてきなさいよ」
ルミカが満面の笑顔を浮かべて頷いてくれたことに満足しながら、私たちは引っ越し作業を続けるのだった。




