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増やせて行けるといいなという三題噺

アイハブコントロール

 「三題噺スイッチ改訂版」から出力したお題で三題噺。

 '24/02/01出力。


 「犬」「鬼」「船」

 ごう、ごう、ごう、と言霊が連なる。


 無数の連なりになって数拍、鬼頭宗隆きとうむねたかは激震に晒された。宗隆が縛り付けられた座椅子は密閉室ごと振動し、遥か眼下では人が晒されれば一呼吸すら許されずに散る毒性の炎が盛んに白煙を巻き上げている。


 さらに数拍。激震は均衡を破り、宗隆は大地から突き上げられた。


 余人は誰一人として立つことなく生を終える爆心地の真っ只中、かつて臆病で知られた宗隆の瞳は自らの行く先をまっすぐ見据え、怯懦の色は欠片もなかった。




 物心ついた時には歳の割に大柄、剛腕で鬼のような強面だった宗隆は、反して小心者で両親によく甘える子供だった。


 見た目でお互いを判断しがちな子供のことだ。宗隆は周りの子から避けられることも多かったが、年上含めて悪童に絡まれることも多かった。まともにやりあえば五分の喧嘩になりもしただろうが、縮こまってしまい一方的に怪我をしたりもしばしばであった。

 友人共に巻き込まれてもまともに仲間を助けられなかった事件の後には、宗隆の扱いは羊頭ならぬ鬼頭狗肉と軽んじられたものになった。


 そんな宗隆を両親が心配したのも当然だが、こと母御が気にしていたのは傷ではなかった。流星群を観に郊外へ出かけ宗隆が天に至ると決めたその夜に、母御は手を繋ぎ並びで流れる星々を見上げていた宗隆に言ったのだ。


「宗隆、わたしはあんたが心配だよ。お前が本当にやるべきことに直面した時、何もできずに後悔しないかね」


 願う母の姿とその向こうに広がる眩い宙空へ宗隆は誓った。いつか自分とその世界を手中に収めてみせると。

 身を守るために初めた護身術でも宗隆はついぞ人を殴りつけるような実戦には慣れなかったが、体躯の操作は染み付かせ、むやみに暴力に晒される機会は減っていった。もちろん勉学にも励み心身ともに成熟を遂げ、選別と修行をくぐり抜けた盟友たちからは鬼の面が頼りの証と認められた。


 宗隆は遂に大望のそらへと辿り着く。




 轟音と振動が止み、宗隆の居る操縦室は静寂に包まれていた。


「管制より操縦室へ」雑音混じりの声が届く。「ローンチは成功した、船体は軌道に乗っている。ユーハブコントロール」


 特大スペクタクルの完了報告を受け歓喜の声を漏らしそうになった宗隆だったが、自制してヘッドセットのスイッチを入れた。


「こちら操縦室、パイロット鬼頭宗隆。アイハブコントロール。ローンチ成功、了解した」

「管制よりパイロット鬼頭宗隆。オートパイロットへの切り替えまで完了している。こちらでは異常を認めていない。以後、異常に留意の上ランデヴーポイントへ向かえ」

「鬼頭宗隆、了解。こちらも異常は認められない、ランデヴーポイントへ向かう」


 ヘッドセットの向こうからは、次々と地上スタッフが上げる歓声と労いの声が聞こえてくる。宗隆たちクルーを乗せた宇宙船は地上遥か800kmを航行していた。




 大気圏外への脱出を仲間と喜びあったのも束の間だ。人工衛星とのドッキングと、その後の乗り移りに向けての準備が始まる。にわかに声が交わされはじめる中、操縦士として座席に留まる宗隆はモニターに映る一面の漆黒を見つめ、手をかざした。


 この宇宙には宗隆を煩わせる悪ガキなんていやしない。宗隆の胸がこれから成すべき無数のミッションに向けて高鳴る。


 ――オーケー、オールグリーン。僕の世界はこの手の中だ。




 終

 読んでいただきありがとうございました。評価やコメントにて反応頂ければ励みになります。小説としての作法の様な初歩的な指摘でも構いませんので、なにか思う所があったらご意見頂ければ幸いです。


 note版はこちら。発想のメモなどを残してあります。

 https://note.com/mistbind_artisan/n/n4532b558a30b#f82a329f-5494-49cf-bd1c-f8bf444c20ab

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