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夢の女
どうやら男は、この山のむこうにある街の裕福な商家の息子らしく、跡目は弟にゆずり、じぶんは画をかく道をめざすことにしたという。
恵まれているのをよくわかっているようで、こんな立派な家も建ててもらって、とはずかしそうにあたまをかいた。
自分の画をみとめて買ってくれる金のある寺があるようで、どうにか面目がたっております、というのは、この道楽をゆるしてくれている親に対してだろう。
「あの女人は、どなたかを画いておるのかな?」
ジョウカイの問いに、お茶の支度をしていた男はやや顔をあかくして、じつは、夢にでてきていた女でございまして・・・と、最後のことばをのみこんだ。
ほう、と感心したこえだけだし、ジョウカイは淹れられたお茶がだされるまで、なにもいわずにおいた。
この小さな家にはもったいないような立派な焼き物でお茶をだされ、ありがたく手をのばす。
どうやら、お茶の葉までもまだ、生家に世話になっているようで、上等なものだった。
「 ―― さきほど、画の女に魂が、とおききしましたのも、その、夢のせいでございます・・・」
お茶をはんぶんほどのんだときに、ようやく男ははなしだした。




