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よかった
「 そこで、おぬしの家の《風呂》に、つかりにゆきたくなったのであろう」
ジョウカイが手にした杖でコツコツと石をたたき、笠をあげておとこをうかがう。
「 ―― さて、この石だがな、おぬしには一度もとりついておらぬ。 風呂も、きょうでもう満足したともいうたし、 ―― 勘弁してもらえるか?」
「はあ?・・・勘弁も何も・・・」
「いやなに、人間にこういうことをすると、石であっても、念のため砕いてほしい、と言われることもあってな」
「砕くって、だめですよ。 これは大事な道標でございますし、なくなれば旅人がこの山で道に迷うことになります」
わたくしも、これがなくては家にもどれない、という男の背を、ジョウカイはうれしげにたたき、よかったのお、と杖ではなく、手で石をたたいた。




