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『 もし 』
首をかしげながら、こどもの落書きといわれてもいいほどの女の画を、まるめようとしたとき、 ―― それがきこえた。
「 もし 」
女の声のようだった。
気のせいかともおもったが、戸のそばにゆき、「はい?」と返事をしてみた。
「 もし 」
また、おなじように女の声がした。
こちらもおなじように、また、はい?といってみたが、女はなにも言わない。
ここに住むようになって、狩りをする里の男たちが時おりよってゆくようになり、タヌキやキツネが、女やどこもの姿になって、人をからかいに出てくるというはなしをよくきいた。