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世間と噂
ここまでしてもらったら、もう、本腰どころのはなしではない。
『極める』という言葉も家業を継がないことの、いいのがれではなく、この仕事をするうえでの心のめざすものとなった。
すると、両親が、何度も山へ通うよりも、いっそ山に住んでしまえとばかりに家を建ててくれた。
実際は、家業をついだ弟をおもってのことかもしれない。
なにしろ、根をつめて画をえがこうというわりには、兄は見た目もかわらず、きれいで整ったナリで早朝家をでて、すこしだけつかれ、だが満足をあらわした顔で毎日もどってくる。
近所でも、あそこの長男は絵師のまねごとに浸かってあとを継ぐのを放り、毎日遊んでいるのもおなじだ、という噂もたっていた。
弟も親も理解はしてくれたが、世間がわかってくれないとあらば、商いをしている家にとっては、あまりいいことはない。
家のものたちはだまってうなずきあい、長男は山へ、体よく放り出されたという噂をのみこむことにした。