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画くべきもの
ただ、あまりにも《みたまま》なので、街で売っても人気にはならないと、版元にはうけいれられなかった。
だが、住職の趣味仲間のどこぞの商家の旦那がえらく気にいってくれたらしく、買い付けたいというはなしがでた。
値は、驚くほど高かった。
そのせいもあり、画をかく暮らしがしたいというはなしはすんなりと通り、まずは気の向くまま外へ足をむけ、めにうつった景色などもえがいてみたが、おのれでさえも、どうにもおもしろみがないものになってしまう。
そこで、草花や虫、鳥などをえがいてみたところ、その生き生きとしたようすをそのまま切り取ったようだと、買い取りさきの旦那が気にいり、これを四季の続き物で画いてほしい、とたのまれた。
ようやく、本腰をいれて画くべきものが定まり、それなら山へ通い、四季のすべての景色や動物をひと通りえがきこみ、つぎの年からかかりたいと申し出るのに、住職までもすこし困ったような顔をしたのに、さきの旦那はこころよく応じ、それまでの支度金もだそうとまで言ってくれた。