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店の奥にあるキッチンでケーキを焼きながら、午後のお客様のための星図を用意する。
ケーキは焼けても冷ます時間が必要だから、食べるのは明日になっちゃうかな。
「失礼。イザベル殿は……」
「あ、ジュールさん! 村長さんとのお話は終わりました?」
「ああ。ここまで連れてきてもらった。イザベル殿も村まで案内してくれてありがとう。助かった」
「いえいえ。でも魔獣が出るという森に一人って大丈夫だったんですか? 馬で来たわけでも無さそうですし、帰りはどうされるんですか?」
二時間前くらいに村長さん宅に案内したあの青年、ジュールさんが店の入り口から入ってきて、私が作業しているテーブルの前に立つ。
「これでもそれなりに戦えるし、魔法も使えるし、飛んで帰ることも出来るから大丈夫だよ」
「飛んで帰る……?」
飛ぶ? っていったい……。
「それより、良い匂いがするよね」
「あ、今ケーキを焼いてて。でも食べられるのはもうちょっと経ってからなんですけど」
「その匂いもだけど、隣を歩いた時から思ってたんだが、君からも良い香りがする」
「え?」
「甘い花の香り。ちょっと酔いそうだな」
「そんな匂いします? 部屋で花を干してたりするから、その匂いかな……え、臭いですか!?」
「いや、良い匂いだよ」
クスクスと笑われて、顔を真っ赤にする。
「普通の人には分からない程度の匂いだから、気にしなくていい」
「そ、そうですか? あ、嗅覚の鋭い獣人さんとか……?」
この世界には、人間と獣人、竜人がいる。
ジュールさんはぱっと見人間に見えるけど、魔法で完全な人化が出来る獣人さんだったりとか?
「どうだろうね。どう思う?」
「え? いや、その……」
屈んで顔を覗き込まれて、ドキっとする。
「この店は薬草の匂いも濃い。生活に根付いたいい店のようだ」
「ケーキは出せないんですけど、昨日焼いたクッキーならあります。ハーブティーと一緒に、私とお茶しませんか?」
「幸い時間があるからお言葉に甘えようかな」
「何のハーブがいいかな。体調はいかがですか? 良く眠れてますか? 胃が痛いとかないですか?」
午後のお客様が来るまで私にもまだ時間があるし、ジュールさんに椅子を勧めて、答えを待った。