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はじめてこの世界の地図を作ったのは、初代の竜帝様だと言われている。
この世界は竜帝様が統治していて、世界に散らばる貴族の多くも竜の血を引いているという。
世界の中心には帝都があり、それはそれは栄えているらしい。
まあ、地図の端っこに記された北の小さな村に住む私にはあんまり関係ない話なんだけれど。
「イザベル、薬草を採りに行ってくれないかい?」
「わかったわ、おばあちゃん」
私はイザベル。ただの平民だから苗字はない。魔女の見習いの十九歳で、薬を作ったり、占いをしたり、たまに魔法も使うけど、魔法はあんまり得意じゃない。修行しなきゃなあ。
よし、今日も北の果ての森へ、薬草を採りに行こう。
「ローブに籠に、鋏も持って」
ついでに美味しいベリーも摘んでこよう。
帰ったらケーキを焼いて、ベリーで飾ろう。
「行ってきます」
「気をつけてね」
「はーい」
◇
「あの、どうされました?」
森の中を歩いていたら、豪華な黒いマントを羽織った美しい青年がいた。
黒くサラサラ流れる長い髪に、金色の瞳。高い身長に、圧倒的なオーラのようなものを感じる。
こんな森に来るような格好じゃないし、そもそもこの広い森は気を付けないと迷うので、地元の人じゃない限り、立ち入らない。
青年は声をかけた私の方を向くと、鋭い視線を私に投げかけた。
「この森で最近魔獣が出るとの報告があった。ここにいては君も危ない。君の住む街まで送っていこう」
「え。知りませんでした! 村のみんなに教えなきゃ!」
魔獣が出るとなれば、村には大打撃だ。
森に入れなくなるのは困る。退治されるのはいつになるだろう。
「村か。ついて行っても良いだろうか?」
「あ、はい。もちろん」
こうして、身なりの良い美丈夫な青年を連れて、薬草もあんまり採取出来ないままに村へと戻った私は、彼を村長さんの家まで案内することになったのだった。