表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/58

第二十章 成りかわるもの その一

 この後暫くして、仲裁を務めた他の()()()()と三郎衛門が頼んだ()()()()()()()()()が、報告を兼ねて見舞いにやってきた。


「身体の調子はどないや。皆の言うこと聞いて大人しいにしとるんかいな。あんじょう養生に努めなあかへんで。」

 ニコニコ穏やかな物腰で、住職が見舞う。

「わかっとるわい、くそ坊主。様子見に込んでも、明日やそこいらすぐにはお迎えは来んわ。動きとうても、身体がちっとも言うこと聞かんだけや。

 それよか七兵衛はんに頼んだことは、皆()()してくれたんけ?ほかの事はともかく、それだけは気に掛かっ取ったんや」

 七兵衛がそれを受けて答えてやった。


「心配せんでもええ。あの連中もアホやない。古市の事情はよう分かっとる。

 なんやかんや()()てたようやが、()()()はんと()()はんでのらりくらりかわしてたら、根負けしよったわ。まだまだ、ケツの青いやつらやで」

「政三郎が…あの政三郎がなあ。乳母日傘(おんぼひがさ)()()()()()()もエエ仕事しよるなあ。あいつら三人はエエ相棒よ。もう安心や。わしも今回は手に合わんわ。()()()()一方や」(今回はどうも手に余るようで、悪くなる一方だ)


「なに()()()()()()じゃ。()()()お前らしない。()()()()お前なんぞ、()()()()()わい。ただの()()()()()やないけ。()()()()()()んかい。」(何をあきらめてる。わがままなお前らしくない。角が取れて大人しいお前など気持ち悪いわ。ただの過労やないか。もっと踏ん張らんか。)

 子供のころの河内言葉に戻って精一杯励ましてみても、すべてをやり遂げ力尽きた三郎衛門には、気力が見られなかった。


 あまり居座っても本人が疲れるだろうと、いとまごいを告げようとすれば、三郎衛門が()()と引き留める。

「すまんが、皆がそろうてる今やからこそ、最後の頼みを聞いてほしい。

 いやいや、()()()()()()の慰みはもうええ。わしのことはわしが()()()()()ようわかっとる。

 それよか政三郎の()()の事や。おぬしらに後見を願いたい。

 ここに居る千吉と嘉平には届けの書付や諸々の内証(ないしょう)はよう頼んである。

 古市の村方(村役人)連中の承認を頼みたいんや。どうかよろしゅう頼む」

「心配すな、ようわかっとる。もう、代官所も村役の連中にも根回しは始めてるよってな、余計な気い回さんと安心して養生せい。ええな、しっかりするのやぞ」

「なんや。もうわしの葬式の算段しとるやないけ」

 憎まれ口をたたきつつも安心したのか、三郎衛門はふーっと息を吐き静かに目をとじた。


 その後、いか程も経たぬある朝、三郎衛門は静かに旅立っていった。

 家人が三郎衛門の様子を伺いに寝間を覗くと、穏やかに寝入っているように見えたそうだ。その場は無理に起こすことなく静かに引き上げた。

 が、あまりに物音がないので心配になった家人が再び寝間を覗くと、すでに息を引き取ってしばらくたっていたそうだ。


 三郎衛門らしい潔い立派な臨終だと、葬儀ではみな手のひらを返したように、口々に感服している。

 最後の騒動はどうあれ、これまで長年にわたり陣頭に立って、古市の村人を率いてきた立役者であり、指導者でもある。

 村民は皆一様に、大きな()()()()()()()にさいなまれた。

 政三郎はじめ千吉も嘉平も同様に、暫くは何から手を付けたらいいのかわからず、生まれたばかりの赤子のような不安に苛まれる。

 といっても、いつのまにか這い廻り始める赤子のように、それぞれの日常へとおいおい踏み出し始めていった。 


三郎衛門がとうとうお亡くなりになりました。享年73歳、当時としては長生きした方でしょう。

最後の仕上げも残し、古市の為に生涯をささげました。

モデルの人はおられますが、実在の人物ではありません。

ただ、ここに載っている古市村の国訴の経過は、史実です。

訴えを起こすだけでは済まない、様々な問題があったようです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ