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第十七章 幸吉の嫁取り  その一

 三郎衛門はじめ若造の嘉助や幸吉たちも家業に子育てと、人生の繁忙期を迎えていた。

 十年という年月は、彼らを三十路の子を持つ親にした。それなりに貫禄もついた。


 嘉助は安永の訴願当初には、既に所帯を持って子持ちである。

 一方の幸吉は、ようやくお千代と夫婦になるという、人生の大きな節目を迎えようとしている。

 ()()()()()()()()という肝入りもあり、祝言は非常に盛大なものとなった。

 その上、花嫁の白無垢は惣代御料(ごりょん)さんお徳の嫁入り衣装で、豪華な花嫁衣装を借り受けている。

 花嫁の格の高さを示すと、村の中でたいそうな話題となって広まった。

 村は、()()()()()()の暗い空気を吹き飛ばすほどの祭り騒ぎに沸いた。


 唯、周りが騒げば騒ぐほど面白くない人物が一人いた。姑になるおえんである。

 一人息子の幸吉の嫁は、是が非でも自分の里から貰うと、早くから決めていた。


 嫁入りした頃は姑に、村どうしのちょっとした()()()()の違いをきつく責められ、散々泣かされた。

 あの辛い思いは、嫁にも二度と味合わせたくない。

 今ではようやく、自分が出た西()()()()を何かと見下す姑から解放され、自分の代になっている。


 おえんは、幸吉が成人の儀を迎える前から、頻繁に西坂田村の里に顔を出すようにした。

 これからは、かかあとして堂々と裏を仕切って行くのだ。

 そのためにも、自分の里から眼鏡にかなう娘をもらおうと熱望していた。


 ところが、そこへ降ってわいたような縁談である。

 しかも、夫の万吉からは、何の一言も相談がない。

 ()()()()()()()()のあおりで、おえんの気持ちを知りながら、万吉はこの縁談を進めざる得なかった。


 家内の事は()()()の領分であり、決して了承もなく嫁を決める事はない。

 しかも自身の母親が、きつい嫁いびりをしていたことを知らぬ万吉ではない。

 禍根(かこん)を残すことにならねば良いが…と危惧しつつも、最早この縁談を止めることは叶わず、心の中でおえんに手を合わせるしかない。


 一方、花嫁になるお千代は早くに母親を亡くし、普段は神社の裏方仕事を一手に切り盛りしている。

 行き遅れ一歩手前で、幸吉より一つ上になっていた。

 とは言え、母親と同じ蒲柳(ほりゅう)の質で、心根が優しく物静かなどちらかと言えば気弱なたちだった。


 嘉助の母親のお咲とお千代の亡母は、同じ京の出の幼馴染である。

 神社の若神主にお千代の母を引き合わせたのは、他でもないこのお咲だった。

 神社仏閣が数多ある京では、同じ家格の嫁入りに難渋した。

 一方で前の神主が急逝したことで、嫁取りをする間もなく多忙になった今の神主とは、双方にとって願ってもない縁だった。


 ただ、この幼馴染は二人の子を残し、早くに亡くなってしまう。

 それ故に、常日頃からお咲はお千代の母親代わりとなって、何かと気にかけてきた。

 その一方で商売柄、幸吉の家内の事情はよく分かっている。密かに、この縁談を危惧している一人だった。

 但し、表向きは申し分のない良縁であり、お千代には要らぬ不安を与えない方が良い。

 嫁いだ後は折に触れ様子伺いに訪ね、いざという時は力になろうと心のうちに留めておいた。

 後にお咲は、この判断を深く後悔して、自分を責めることになる。


 あきらめきれないおえんは、頻繁に里に顔を出しては、良い娘はないか探すのをやめない。

 知らぬ顔で先に嫁にもらってしまえば、後はどうにでもなるだろうと(たか)()くっていた。

 勿論、そんな思惑に乗る家は無い。

 とうとう実家の跡を継いだ実兄から、手ひどく叱責を受けることとなった。

 兄は村役も務める。当然のこと、三郎衛門とも懇意にしていた。


「嫁いだ家をないがしろにして、何度も里に顔出すとは()()()()()()()のじゃ!

 古市の三郎衛門はんとは、これからも長い付き合いになると言うに、万吉はんの顔つぶす気か!

 この村では、お前の相手するもんは誰も居らん。ええ歳こいて、分別も付かんのか!」

 と、きつく叱られ、出入り禁止となった。

 最早、()()()()()と諦めてくれればよいのだが、おえんは返って一層()()()()()てしまった。



幸吉もとうとう所帯持ちになりました。とはいえ、何やら波乱の気配が……

おえんが、これほど自分の里から、嫁を迎えることに固執するには訳があります。

当時の村々では、ワザとのように各村独特の風習が存在しました。

その独自性で、村内の結束を高めて、忠誠のようなものを求めたようです。

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