表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/58

第十五章 篭絡  その三

「坊主が赤い顔して調子こいてからに。お前のとこの寺にご利益はないことだけは、ようわかったわ。

 それより、そのアホの勘当息子の目エ覚まさせて娘に惚れさせようとは、えらい遠い話やが」

 三郎衛門はしかめ面でため息をつくと、佐平には何やら確信がありそうで…


「大丈夫や。そいつが惚れてる遊女は小梅の()()()|でな。ちゃあんと躾は出来てるがな。遊女の方も全く本気や無うて、ええ旦那も付きそうな所なんや。

 そやのに()()()()られて、迷惑してたんや。

 目エ覚まさせるには丁度ええ頃合いや」

「まあ、小梅にまかしといたら、上手に収めてくれるやろうけど…」

「あかんあかん。ここは、死ぬほど痛い目おうて、死にそうなほど落ち込んでもらわんとあかん。そこの塩梅(あんばい)は小梅に任すとして、二人を合わす算段やけど…」

 皆一斉に心の中で、佐平!お前が一番の鬼や、と突っ込んだ。


 三月後、正月も明けた新年の会合で、再度いつものメンバーが集まっている。

「いや、ホンマに危なかった!

 まさか一度の()()()(はら)ませるやなんて…あいつも廓で何学んできたんや。

 ()が思てた以上に娘大事で良かったもんの…」

「ホンマに肝冷やしたで。まさか娘が、庄市さんを切るなら私もお腹の子も一緒に死にます!言うて短刀持ち出した時は…」

「なあ!ワシも葬式二つかいな、三つになるんかいなと焦ったで。

 ワシと住職で間に合うんかいなて」

「アホ!罰当たりな坊主やで。まあ、住職と平右衛門さんが、間に入ってくれて良かったわ。ワシらでは()はんを(なだ)める算段は付かんかった」

 三郎衛門は心底ホッとして言った。


「なっ、ワテ言うたやろ。お父はんとお住職、それに小梅に任しといたら、何とかなるて」

 佐平が小鼻を膨らまして、自慢げに胸を張っている。

「ふん!偉そうに。親父に丸投げしただけやないか。

 そやけど、まさか小梅の旦那がお前の親父様で訳アリの仲やなんて…猫だましに会うたようで、まんまとしてやられたわ」

「別段だましたわけでも何でものうて、随分と前から身請け話はあってん。

 けど小梅はんが、こんな遊女が後添えでは亡くなった御料(ごりょん)さんに申し訳ない、言うて遠慮してもうて。おかあはんが亡くなって、もう大分になるゆうのに」

「ほな佐平、お前が小梅に会うてたんは」

「ああ、お義母はんに甘えがてら、色々()()の事も相談しにな。

 まあ、廓の事も家の事も全部、小梅母さんが仕切って張ったさかいに。

 お父はんとは、一緒になってるようなもんやってん」


「お母さんて小梅がいくら年増ゆうても、こんな大きい息子では可哀そうやろ」

「へえ⁇小梅ていくつや思てんの?」

 佐平が何やらニヤニヤ含み笑いして、皆に聞いてくる。


「そら、流石に新造(しんぞう)(新人遊女)とまでは言わんが、二十五かそこいら…」

「いや待て!小梅て、いつから居てるのや?ワシらが通い始めたころは、もうお(しょく)(売れっ子ベテラン遊女)張ってたで。それから数えても、十年は超えて…」

「ますなあ。それどころか、親父の頃からお職張ってたて聞いてますで」

妲己(だっき)て、遊女の妖怪居りましたなあ」

「絶世の美女やと聞いてるで。割増しに考えても、ちと無理ないか?」


 皆勝手なことを言って、がやがやと五月蠅(うるさ)いことだ。

 最後に佐平が爆弾を落として、この騒動を収めた。


「何が妲己や。お義母はんになる人、妖怪にせんといてや。

 もうかれこれ、四十路(よそじ)近いはずやで。あと二つかそこらいう所かなあ。

 一回ワテもお父はんに、ワテのホンマのお母はんは小梅か?て聞いたことあるけど、頭はたかれたわ」

「四十路前…ワテのお母はんより上かも。今年入って一番の()()()()()()やがな」

「今年入って、なんぼも立ってないがな」

「ちゃうちゃう。生まれて一番の驚天動地(きょうてんどうち)やんけ」

「今まで生きてきたおまえの一生は、小さいのう。

 ついでに最近覚えた難しい言葉、使えてよかったなあ」


次回はもう少し詳しく夜這い騒動にふれます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ