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第五章  篭絡 その二

 流石に坊主は()の事情をよく知っており、

「お内儀亡くした後も、後添え娶るでもなし、男手一つで一人娘を育てあげたそうや。継母にいじめられでもしては、可哀そうや言うてな。」

「そら、余程可愛い娘御なんやな。」

「それやがな。嫁に似たらよかったのに、()に似てしもてな。

 可哀想におなごにしてはいささかごっつい身体つきで…その上、どちらかいうたら()()()のほうでな。

 そやさかい 、すっかり行き遅れてしもてなあ。余計不憫(ふびん)かかるようやで。」


「それやがな!」

 思わず三郎衛門は膝を打って叫んだ。

「びっくりしたなあ、もう!それてなんや。」

()()()の弱み!その娘やないかい!」

「おまえは血も涙もない男やな。目に入れても痛ない程可愛いがってるて、言うてるやろ。

 その娘使うて、弱みに付け込もうやなんて信じられへんわ。醜女(しこめ)やぞ!どない使うのじゃ、罰当たりな。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」


「どっちがえげつないねん!今更、お前が神妙に坊主面(ぼうずづら)しくさっても、(へそ)が茶を沸かすわ!さんざ、嫁許(いいなずけ)泣かしてんの知ってんねんぞ。

 ええ加減、身辺綺麗に整えとかんと…祝言も近いくせに、住職に洗いざらいばらすぞ」

「な、な、なんちゅう事言うのや。坊主を脅すとは、神罰が下るぞや」


 ここに、若江郡の佐平が話に絡んできた。

「罰当たりはお前はんや、仏罰やがな。修業が足りひんのとちゃいまっか?

 …とは言え、この話は意外と役にたつかもしれんでえ」

「なんや?何ぞええ策でもあるんか」

「フフ、あつらえたようにぴったしで、耳寄りな話がありますのや」


 噂好きの志紀郡の一人が、うずうずして続きを催促する。

「なんや佐平はん?もったいぶらんと聞かせてえなあ」

「娘の嫁入りが、()はんの悩みですねんやろ。そこをちょっとつつけばええのや」


 ここで、若住職が人の家の内情をばらす。

「住職の親父が言うにはな、外山はんは婿取りにも嫁入りにもこだわってないのやて。ただ、娘の幸せが一番大事やと…。

 そら、身分もあるさかいに、下心から婿入りを打診してくる輩には事欠かん。が、外山はんの眼が厳しすぎて、まとまる話もまとまらん。

 娘もすっかり行き遅れの年になってしもうてなあ、もう、娘はんも諦めてしまわはった。

 こんな醜女の年増では、養子に来てもろうても可哀そうや、いずれは離れで寺子屋でも開いて、一人で生きていく、と」

「それはいささか哀れな話やな。そこに縁談持ち込んでも、うまいこと行くかいな」

「まあ、男女の縁は異なもの味なものて言いますやろ。こればかりは、試してみんと相性はわからへん。

 丁度崖っぷちで後のない男知ってますのやけど……ワテは、案外と上手くいくのとちゃうか思うねん」


 普段ぼーっとしているようで、たまに鋭い所を見せる佐平の話に、皆が身を乗り出してきた。

「どこぞの誰や、その崖っぷち男は。」

「ほれ、遊女に入れあげた挙句、勘当寸前の…。」

「ああ、正市言うたか、大店のアホ息子が一人おったな。もう勘当されたんか?」

「かろうじて首の皮一枚つながってまんねん。今も座敷牢に閉じ込められてるはずやでエ。」

「そうや!父御がうちの住職に相談に来てたわ。

 ちいとも、懇ろになった遊女をあきらめようとせん。

 次男も居ることやし勘当するしかないか、言うて嘆いてたわ。」


 ガバガバの個人情報である。

「ワシは絶対お前のとこには、相談事は持ち込まん。みんな筒抜けやんけ。」

「大丈夫や。たとえばらしても、お侍はんに限って、内々の事は自分の事やとは口が裂けても言わん。

 まだ他にもお侍のおもろい話が色々あるけど、聞きたいか?」



まだまだ彼らの暗躍が続きます。

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