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第十三章 画策

 改めて古市郡の()()()()を作り終え、無事に皆の()()が押された。

 この時代今の弁護士にあたる、公事師(くじし)と呼ばれる訴訟の代行を生業(なりわい)とした専門業者がある。

 奉行所の周りには、公認の公事宿(くじやど)と言った宿()()()()()事務所が軒を連ねていた。


 弁護士と仕事内容はほぼ同じ、いやそれ以上といっていい。

 訴訟技術の伝授・代筆・交渉・加えて飲食付き宿泊も兼ね、多岐にわたって訴人の世話をする。


 奉行所も、この業者を利用するよう推奨していた。その方が、公文書の作成ミスなど余計な手間が省けて効率が良いのだろう。

 この時代、訴状には厳しく厳正な対応がされていたようだ。


 作成には大変な労力を要しており、()()()()もよくみられた。

 証文の書式など、それぞれの専門分野に役割分担が完成されていたという。

 法律家ではないので詳しくは分からないが、()()の緻()()さ、しつこいほどの()()()()()…に感動すら覚える。公文書は退屈なので、ここでは端折るが…


 ()()()()()()()は関係ないとおもうが、このように大抵の証文には、書式が定められている。その為、代書業はとても流行っており、()()()()も、この代書屋が抗議文を作成していた。


 頼み証文の文面を簡単に紹介すると

 ①頼む内容の確認

 ②証文であること

 ③頼む者(差出人)頼まれる者(宛て先)の明示

 ④頼み状であることの明示

 ⑤あくまでも惣代を出すためだけの文書である事

 余計なことは一切書かれてはいない、厳正な()()()である。


 頼まれた惣代は、全力で事に当たらねばならない。

 勿論、不正は決して行わないなどの()()も入れた。

 案件ごとに一代限りの就任で、何かあればその都度新たに惣代を選出しなおす。

 ()()()()()()防止の素晴らしいシステムだった。

 何処かの大国も、見習ってほしいものだが、選出の経費・時間の浪費が負担になるのは否めない。


 三郎衛門はん!覚悟の就任だった。

 この後三郎衛門は、若江郡の惣代平右衛門の元を訪れ、最敬礼・叩頭しながら無事証文を返している。


「ホンマに平右衛門はんには、この先足向けて寝られまへん。

 この伝家の宝刀で一気に畳みかけ、こちらの思い通りにもっていけましたわ。この流れに乗って勢いつけて、訴訟まで突き進んでみせますで」

「ハハハ、まあ先は長い。肩の力抜いて、おきばりやす」

 平右衛門はキセルをふかして余裕を見せ、すこぶる機嫌が良い。

 だが三郎衛門は、平右衛門の言葉尻に何か引っ掛かるものを覚えた。


「やはり、一筋縄ではいきまへんか」

 平右衛門は、コンっとキセルを煙草盆のふちでたたき、

「お奉行はんはそないに甘ないで。ましてや延べ売買所は、三郷の仲買の肝入りや。ワシらとは、(ふところ)の中身も互いの(えにし)も違うがな」

「そない強うに繋がってまっか?」

「そらそうや。お奉行様はともかく、与力も同心もこの三郷の人間や。

 嫁も婿も養子も互いに取り交わしてもて、長い間ガチガチに結びついてる。

 正味身内みたいなもんや。 

 これをほどいて、ハサミでちょきん!簡単にでけるもんやない」

 手で首をチョンと切る真似をし、おどけて見せる。


「叔父はん、ぶっちゃけこの戦、勝てると思いますか?」

 三郎衛門は、普段の心おきない呼び方に戻り、居ずまいを正して問いかける。


「先ず、あかんやろなあ」

「千に一つも?」

 平右衛門も軽く頭を振って見せ、

「万に一つも!」

 追い打ちをかけるように、僅かな望みも無情に絶っていく。


「いけず言うてんのと違うで。これが嘘偽りのない内実(ないじつ)(真実)や。

 そやからいうて、()()()()()()()(放り出す)んやないで。

 そっからがお主らのほんまの正念場や。先頭たって()()()()()()()()()()()()()みせて見んかいな(開き直って、踏ん張ってみせる)」

「わかってま。ワシかてこの話をご破算にするわけにはいかん。

 腹はもうとうにくくってま。村方の連中の手綱、見事しっかと締めてみせまひょ」

「そやそや、その意気や! 但し、この話はお前の腹の内だけに収めておけ。

 焦ったらあかん。すこーしずつ種をまいておくのやで。()()は必ずやって来る。

 慰め言うてんのやないで。長いこと生きてるとな、世の中こんなり同じに続くことは何一つ無い、てわかってくるのや。

 やがて潮目がこちらに変わる時がくる。

 その時のためにせっせと種と肥を撒いときや。ゆめゆめ怠たるでないぞ」

 と、キセルを使って見えを切って見せる。


 はっ、昨日観た()()()()()()()()()かいな。このへたっぴい!ええ事言うて思てる尻から、これかい…。

 締まらない平右衛門に、三郎衛門は気が抜けながらも、ここでただ手をこまねいているわけにはいかない。

 じわじわと肥撒きにかかるかと、思案にくれる。


ここで、百姓一揆が出てきますが、文面だけでなくほとんどが様式化されていたそうです。

これが百姓がおしんのように、貧しく苦しい生活を強いられていた印象を与えてしまったのですね。

豊かとまでは言いませんが、小百姓が大百姓に成り上がる者もあれば、土地を手放して夜逃げするものもあって、今と変わりませんね。

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