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第十一章 頼み証文  その一

惣代を選出するのに必要な、委任状の話です。

今とは違い、委任された惣代の権限が大きい様子が分かります。


 ()()()とは、現代でいう()()()の事である。

 今のような法制度がなくても、この時代では公的な文書として、しっかり効力があった。


 現代の地方選挙を、想定すればいいかもしれない。

 選挙権は十八歳以上ではなく、年寄と呼ばれた本百姓だが、()()()御持参の上会合に参加し、協議を行い()()を選出する。

 全員の()()を押すのだから、かなりの拘束力を持つ。


 惣代に決まってしまえば、裏切りも反対もそう簡単には通らない。

 その上、惣代選出に領主や代官は介入できないし、世襲もない。


 こうして改めてみると、世界が()()()()をうたう中、()()()()()()()はここ大坂の村々で、すでに始まっていたことになる。

 この「国訴」という訴訟運動を知れば知るほど、江戸時代は世界でもまれにみる近代化が進んだ時代ではないかと思ってしまう。


 百姓たちは、事細かくあらゆることを想定して、証文を作成した。

 ここで決まったことは、必ず各村々で()()()を徹底する。

 訴訟後の収支決算を見ると、()()()()()()筆耕(ひっこう)()()から、立替えた金につける()()まで、細かくキッチリと清算されている。


 しかも、裁判の経過・顛末(てんまつ)の記録を記す『()()』を村内に回覧し、各村で必ず記録しておくよう念を入れる始末だ。情報の共有を徹底させたのだ。

 そのために使う人足や飛脚代は、今と比べてもかなり高価であったにも拘らず…。


 しっかりとした訴訟制度や地方自治が整った、近代法治国家としての姿がかいま見える。

 むしろ、今よりも道徳教育が盛んな分、日本人の生真面目で勤勉な所や心細やかな気遣いにあふれており、最も進んだ時代に生きていると信じ込んでいる現代人の驕りを、つくづく実感してしまう。

 私達は科学技術的な発展ばかりに気を取られ、大切なものを捨てさってしまったのかもしれない。

 過去を振り返って、先人たちの行いや思いにもっと触れるべきかもしれない。


 この惣代は、一村から一人ではなく、十数村から五十ぐらいの村々に一・二人の割合で選ばれた。

 町長・市長同様の、決して大きいとは言えないかもしれないが小さくもない権限を持つ施政者といったところだ。

 ということは、村民の意向を十分汲むことが出来、かつ代官や役人との折衝にも長けた人物でないといけない。

 中間管理職という言葉が浮かびそうな、神経をえぐる役目だった。

 下からは無責任に突き上げられ、上からは無理難題を押し付けられる。


 三郎衛門もご苦労なことである。

 若さゆえの無謀ともいえるが、やはり胆力の備わったひとかどの人物だったのだろう。

 三郎衛門は、嘉助を他郡との寄合にも帯同し、話し合ったことを事細かく記録させた。


 頼み証文を作る以上、そこに齟齬(そご)やつけこまれる隙があってはならない。誤字などもってのほか。

 自分の惣代就任を、確たるものにするためには、誰からも後ろ指をさされない立派な()()が欲しい。




頼み証文は町内会の委任状とは違い、全権委任となります。

頼みは田の実から来ており、八月一日の八朔を指します。

一年の半分に(旧暦の八月一日)、上役や親せきに日頃の感謝を込め、お礼を持って一軒一軒廻る習慣がありました。戦前まで残っていたように思います。

これが中元に当たります。

これからもよろしくごひいき賜る=頼む、ということでしょうか。



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