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第十章  ハッタリ    その三

かなり強引な奥の手をつかいます。とはいえ、この三人にかかればお笑いになってしまいます。




 三人が建てた作戦とは?

()()は一回こっきりの任期とするのや」

「そこで、この幸吉が役に立つのや」

「ワイけ?そらやれと言われたら、どないなことも力は惜しまんが…。

 ワイで何ぞ役に立つことがあるのけ?こんな若造やが?」

「オウよ!お前の家はなんや?

 代々村役年寄を務めた家やろうが!

 おんなじ村役のせがれ同士、普段から()()組んどるやろがい!」


 古市村は、古市郡の一村に過ぎない。古市郡には十五か村が所属しており、郡の代表が()()と呼ばれる。(一人とはかぎらない。)


 その各村の本百姓が、今の村議や町議にあたる庄屋、組頭、百姓代など村役を選ぶのである。

 その選挙や会議を行う場を寄合といい、主に寺社や宴会場のような広い宿で開かれた。

 役人のように公務を務めながら、役所という建物は存在しない。

 町内会長と町会議員の混ざったようなもので、今よりも大層な名誉職で、権限も与えられていたというところ。

 この職を失った百姓が、取り返すために、裁判すら起こした例もあり、村への影響力も大きかったのだろう。


 因みに公民館という物は、この時代存在しない。

 祭りや普段の集まりは、主に庄屋の屋敷か寺社を使った。

 相談役や調停者として、神主や僧侶の影響力も大きかった。


「まあ、普段から、ようつるんで遊んどるかいな?若者組の連中とは、違う付き合いやが…」

「それでええのや。高持と小百姓の子せがれでは、暮らしも物のとらえ方も違う」


 そもそも高持の子は、村内の寺子屋ではなく、高い束脩(そくしゅう)(塾代)の必要な塾で、付き合いに必要な教養や土地の経営を学ぶ。

 勿論高持としての世間体もあり、将来の村役として同じ環境にある者同士のよしみを結んでおく、意味合いもあったろう。


「他の村役・年寄のせがれを動かして、わしらの仲間に引き入れとるやろ。

 それらを親の代わりに会所に出さすのや、どないな手をつこうてもな。

 金は使うなよ。金の縁は簡単に裏切りよる。その辺の塩梅(あんばい)はでけるや」


「イヤー親を動かすんは、あいつらでも難しいで」

「アホ!今まで何を学んできたんや?

 放蕩(ほうとう)して家つぶすやら、村中の娘に手エ出すやら…なんぼでも脅しのきく()()はあるやろが」

 嘉助は腰を抜かし、

「イヤ!何を言いだすのや、このお人は。

 そない恐ろし事言いなはんな。家追いだされてしもたら、どないしますのや。

 こそっと耳元で、金貸しから話聞いてるのやでとか、なじみの遊女の名をおかんにばらすぞとかささやいて、一回だけオトンの代わりに寄合出てみたい、て言うたらよろしいのや。穏やかにいきまひょ」


「お前…なんやええこと言うてまとめようとしてるが、そっちの方がよっぽどえげつないぞ」

 三郎衛門も幸吉も、こいつだけは敵にしたらあかんと心の中でつぶやいた。

「まあええわ」

 三郎よ、何がいいのかわからないが…


「こうなったら、跡取りとしての心構えとして、一度経験させて欲しいとかうまいこと言うて、代理として出席させてもらえ。

 一気に惣代選びに持ち込むぞ。

 元々、惣代はワシの家が代々務めとるのや。早いか遅いかの違いにすぎん」

 初めから、そう言えばいいのだ。


「そうだすな。お父はんの苦労を味おうとかんと、お父はんのような立派な村役にはなられへんとか何とか適当にゴマすれば、大概の親は、()()言うて丸め込めますで」

「やっぱりお前だけは敵になりと無いわ」

「そないほめてもろうて、なんやこそばいわあ。

 ほなこれで一気に決めて、とはいえ後で文句の出んように…」



かなり強引な奥の手をつかいます。とはいえ、この三人にかかればお笑いになってしまいます。



後書き

ここで、初めて「頼み証文」という言葉が出てきます。

次回はこの頼み証文と当時の村政と仕組みを簡単に説明します。


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