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悪役令嬢は紫の薔薇を育てる

作者: もいもい

キャロットは悪役令嬢である。

侯爵家の生まれであり、幼い頃から非凡な才能を見せ、齢10にしてその評判は隣国へも届く。12で時の第一王子と婚約、正にこの国の淑女における理想の人生を体現した存在である。

彼女の性質は、偏に「気品」

誰よりも気高く、誰よりも美しい。薔薇のように華やかで、そして薔薇のように他を寄せ付けない棘があることから、その髪色に準えて「王国の紫薔薇」と呼ばれた。


そして彼女は、17歳を迎える事は無かった。


「キャロット!貴様はこの国の王女に相応しくない!この場をもって婚約破棄する!!」

第一王子の声が、王立高学院の卒業パーティに響き渡る。

キャロットは、一瞬、その目を伏せ、そして再び王子を見つめ、まるで夕食のメニューを聞いた時のように淡々と

「承りました。それでは後は家同士の話し合いになりますので、詳細は後日。‥皆様、お騒がせして申し訳ございません。これは当家より卒業のお祝いの品でございます。ごゆるりとパーティをお楽しみ下さい!では王子、失礼いたします」

「えっ、あっ、ちょっ、待っ」

白鳥のように優雅に、清流のように淀みなく、そして流れ星のように一瞬で、パーティから姿を消した。


キャロットが毒杯を賜ったのはその半日後である。


彼女は朝日の中、目を覚ます。姿見を確認し、使用人に今日は何月何日かしら、と尋ねる。10歳の誕生日- そう、キャロットは6年前に巻き戻ったのだ。

それでも彼女は、まるで朝食のメニューを聞いた時のように、淡々と、「それでは着替えるわ」と準備を始めた。

何年も、何も変わらない、普段通りの、一日の始まりである。


キャロットには自負がある。

紫の薔薇、その花言葉は、「気品」。他にもいくつかあるが、全て自らを体現している、其の物であると。そして、自らはそれに相応しい存在である、と。


「キャロット!貴様はこの国の王女に相応しくない!この場をもって婚約破棄する!!」


キャロットは自負がある。自らは、自らに嘘をつかない。常に自分の信念に従い、例え花が枯れ散ってしまっても、その美しき幹は決して折れる事は無い、と。

平民の聖女に「貴方はここに相応しくない」と言うことも、王子に「王家の自覚が足りない」と言うことも、

一挙手一投足、全てに己が意思を乗せて。


この日、キャロットは23回目の毒杯を賜る。


キャロットは悪役令嬢である。誰が言い出したかはわからない。何が悪役なのか、誰にとっての悪役なのか。

-全力で生きれば、その者は誰かにとっての悪役になる-

キャロットはすでに100年以上前の、朧な前世の記憶を辿る。

妥協の多い人生だった。半笑いで自らを覆い隠し、打算と諦観に染められた、二番目、三番目の選択肢を選んできた。

仕方がない、平々凡々な器には、それなりの道しか歩めない。

そして彼女は目を覚ます。幸が不幸か、家柄も、外見も、才能も、何もかもを「持っている者」に。

姿見には、羨望と怨恨の色を残した、紫の双眸がキャロットを見つめる。


キャロットには自負がある。

もう、自らは、自らに嘘をつかない。

常に自分の信念に従い、例え花が枯れ散ってしまっても、その美しき幹は決して折れる事は無い、と。

平民の聖女は、決していきなり貴族だらけの高等学院に放り込む存在ではない。こんなところでは、彼女が必要な、聖女のための力を伸ばす授業は一つもない。聖女とは、その処女性を神に捧げ、人と神を繋ぐ存在である。貴族、王族との交流など害悪にしかならない。貴方は、ここに相応しくない。

王子は、この王制を取る国では、例え実質の政治が議会制であり、象徴である存在であったとしても、いや、だからこそ、王家は誰よりも、王家の者であることを自覚しなければならないのだ。彼女は12となってからは、前世の皇族を参考に、常に気高く、誰よりも美しく、華やかであろうとし、それを体現してきた。それに対し、その言動は、怒りすら呼び起こす。王子は、王家の自覚が足りない。


キャロットは決して折れない。毒杯の数が増えるほどに、まるでそれを栄養にするかのように、その紫の花弁は、大きく、美しく、気高く。


七十七回目、彼女は、あらゆる意味で、王国の紫の薔薇となった。

花言葉は、「気品」、「誇り」、「高貴」、「尊敬」、「上品」、

そして、「王座」である。




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