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讃岐の林田  作者: 林田力
菅公
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菅原道真

菅原道真は仁和二年(八八六年)から寛平二年(八九〇年)に讃岐守として讃岐国に赴任した。それまで道真は文章博士を務めていた。これは菅原家の家業とも言うべき役割であった。道真は幼い頃から大変賢く、和歌や漢詩を得意としていた。道真は五歳で和歌を詠み、一一歳で「月夜に梅華を見る」の五言絶句を詠んだ。

道真にとって文章博士を解任されての讃岐守任命は屈辱的であった。道真は公務員的なジェネラリストではなく、ジョブ型の発想を持っていた。学者としてのキャリアを中断しなければならなかったことを残念に思っていた。道真の学問に対する情熱は並大抵ではなかった。


菅原家は私塾の管家廊下を運営しており、そこの学習者が学閥を形成していた。道真の讃岐守任命は、菅家廊下の勢いが増大することを恐れた学者達による陰謀であった。彼らは道真を都から遠ざけようとした。


道真は大学寮文章院での送別会で以下の漢詩を作った。

***

我 南海に風煙に飽かんとす

更に妬む 他人の左遷なりといはんことを

つらつら憶ふ 分憂は祖業に非あらずと

徘徊す 孔聖廟門の前

***

道真は涙を流し嗚咽した。


道真は摂政藤原基経から朝廷主催の公式の送別の宴では詩をともに唱和するよう求められたが、落涙・嗚咽して一言しか発せられなかった。公務員組織の宴会への参加を強要する体質自体がハラスメントになる。


道真は国府に着任した。

「ここが新しい職場か……」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「まずは、讃岐国の現状を教えてください」

「はい。では早速説明いたしましょう」

「……というわけでございます」

「なんですって?!そんなバカな!」

「えっ?」

「それはおかしいです。こんなことは許されない」

「いえ、しかしこれが現実なのです」

「いいですか?この国は今大変な危機に陥っているのです。それなのに、どうしてこうも悠長なことをしているのですか?もっと早く手を打たなければ手遅れになりますよ!」

「そ、そう言われましても……」

「あなた方はそれでも役人なんですか!?」

「まあまあ落ち着いてください」

「私は落ち着いていますよ。とにかく、このまま放置していたら国が滅びてしまいます。すぐにでも対策が必要ですよ!」

「うーん……。困りましたね。どうしたものでしょうか……」

「何を言っているんだ!!君たちはそれでも役人なのか!!」

道真は讃岐国の現状について把握した。

「これは酷いな」

道真は率直に思った。


道真は林田湊で庶民の生活を見た。

「ここが林田湊か」

道真が初めて見る港である。船着き場から海側に少し高台があって、そこに家々が建っている。大半は漁師たちの住む借屋である。道幅は狭く入り組んでいた。

「父の名前は幸右衛門と言った。私達家族は貧しい漁師の家に生まれた。母は早くに亡くなっていたから、父と二人きりの生活だった。父が漁に出る時はいつも一緒に行ったものだ。父の背中を見て育った。私が十五の時に父は死んだ。それからは私が一人で船を操った」

「大変な仕事なんでしょう」

「大変だけど楽しかった。海の上は自由で気ままで、自分の好きなようにできる。それに魚が釣れると嬉しいだろう。海の上で食べる魚の味は格別です」

「へえー、そうなんだ」

「だから私は船乗りになったんです」

「なるほどね」

「でも、すぐに船は沈んでしまった」

「それは残念だね」

「ええ。それで、また新しい船で一からやり直そうと決めたのです」

「それが今の船なんだね」

「はい」

「でも、どうしてこの店を始めたの?」

「ここは私の故郷です。だから、ここに戻ってきたかった」

「そうか」

「でも、まさかこんなことになるとは思ってもみませんでした」

「そうだよね」

「本当に困りました。このままじゃ商売が立ち行かないですよ。どうしたら良いでしょうねえ」

「うーん……、難しいなぁ……。何か手はないかなあ……」


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