犬
朝。
夕夏は階段を下りていく。
ズドドドド。
激しい音が鳴り響いたのと同時に、夕夏は気を失った。
すごい勢いで、夕夏は階段を転げ落ちていたらしい。夕夏自身に何が起きたのか?まったくわからないまま、そのまま意識を失ってしまったようだ。
「ーー夕夏ぁぁぁ」
突然の音にビックリして、キッチンから飛び出してきた母が、大騒ぎしている。
柴ちゃんと翔大が顔を出す。
「ーーどーしたの?」
先程の音の正体を、二匹は今初めて知ったようだ。
それでも、どーしていいのか?わからなくて、夕夏の周りをウロウロしながら、吠えている。
「ワンッワンワンワン」
まるで夕夏に呼び掛けるように、大きな声で吠えている。
夕夏の母も突然の事過ぎて、まだウロウロと戸惑っている。
柴ちゃんが、トコトコと歩み寄る。
「ーー母ちゃん、、。落ち着いて」
ほんとは柴ちゃんの方が落ち着けていなかったのかも知れないが、精一杯の強がりで柴ちゃんは言った。
ーー頼むよ。落ち着いて対処してくれよ。こんな時、どーしたらいい?俺には、夕夏がいない日常は考えられないんだ。母ちゃんも同じ気持ちだろ?
ハッと静香は我に返った。
ーー救急車。そーよ。救急車呼ばないと。
少しだけ落ち着いたような様子で、静香は受話器を固く握った。
「事件ですか?事故ですか?」
電話の向こうの人が突然聞いた。
「ーー娘が階段から落ちて、意識を失っているんです。なので、救急車を一台お願いします」
住所と名前を告げると、電話の向こうの相手は5分程で到着できると言う。
五分間の間に何が出来るのか?聞いたところ、動かすのは良くないと言うことなので、その場で夕夏を見守りながら、救急車を待った。
三分もすると救急車が到着した。
救急隊員が忙しそうに色々と確認している中で、柴ちゃんたちに言った。
「ーーちょっと行ってくるね」
夕夏の事は気になるが、病院まで着いていく事は出来ない。
仕方なく二匹でお留守番をする事になった。
留守番している間に、翔大と話をした。
「俺、前の飼い主のばあちゃんに、誘われたんだーー自分のとこにおいでって言ってた」
「うん」
「でも、今は夕夏や母ちゃんがいる。だから断ったんだーー俺が死んだら夕夏たちが悲しむから。ばあちゃんにも安心して、あの世に行ってもらわないと、、」
「そうだよね。いい飼い主さんなら、尚更、もう離れなきゃいけない時期だよね?」
「うんーーほんとは別れるのがすごく寂しいんだ」
翔大が俺の背中を優しく撫でる。
ーーでも、夕夏たちの事も失いたくないんだ。俺、これで良かったんだよな?
ーー正しいか?間違いか?なんて誰にもわからないけど、、。僕はそれで良かったんじゃないかと思う。
翔大が言った。
「そーだよな?自分が選んだ道だからな」
「そうだよ」
「ところで夕夏はどーなったかなぁ?」
「わからないけど、無事だと信じるしかないよねぇ」
そんな話をしていると、電話が鳴った。
プルルルプルルル。
柴ちゃんが受話器を鼻で押して、通話が出来る状態にしてから言った。
「もしもし?」
「柴ちゃん?」
「うん」
「ーー心配しないで。夕夏。大丈夫だったから」
「大丈夫だった?」
「うん。念のため、今日は1日、病院に泊まるけど大丈夫だよ」
「ーーあっ」
「どーしたの?」
「ーーどーしよ?鼻で受話器を押し出して、電話はとれた、、けど、直せないや。どーしよ?」
ーー大丈夫。
私が一旦帰るから。
夕夏の母が言った。
「わかった。待ってる」
柴ちゃんと翔大で、電話が切れる音を聞き、その場を離れた。
ーー大丈夫だったみたいだな、、。
ーー良かった。
ーーほんとに良かった。




