老人
その夜。
ワンッワンワンワンワン。
けたたましい程の柴ちゃんの泣き声で目を覚ました。
祐司が駆けてくる。
「どーした?どーした?」
静香も駆けつける。
ワンワンワン。
ガルルー。
すごく怒った表情をしている柴ちゃんの声が低い。
ーー一体何があると言うのだろう?
母と父が柴ちゃんの目の先を追う。
そこには誰だろ?誰か分からないが、人影の様なものが浮かんでいる。
間違いなくそれに対して柴ちゃんは警戒している様だった。
私には年配で気品のあるお婆ちゃんの様に見えた。
「ーー」
何か伝えたい事があるのだろうか?
年配のその人は口をパクパク動かしている。
その声は聞こえて来ないがーー。
目を閉じて、耳を澄ませる。
「ーーこの子を、、頼んだよ」
年配の人がそう言ってる様に聞こえる。
「ーーあなたは?」
目の前の老人に、問いかけてみる。
しばらくして老人の声らしきものが聞こえてきた。
「私は、、私はーー」
ーーなに?
聞き取れない。老人の声にノイズが重なる。
「私はあなたのお母さんのお婆ちゃんにあたる存在ーー」
老人が言った。
母のお母さんのお婆ちゃん?ーーって事は、もう生きているはずない?
ーーもしかして幽霊?
漠然とそんな思いを巡らせたが、今は怖いとは思わなかった。
「安心」する気を持っているのかも知れない。老人が触れた部分はなぜか暖かい感じがする。
しかし、その老人の手はするりとすり抜けていく。
柴ちゃんも目の前にいる老人に、尻尾を振り今度は喜んだ声で鳴いた。
ーーワンッ。
老人の側を行ったり来たり、チョロチョロとしている柴ちゃんは落ち着かない様子だ。
少しなついているようにも見える。
何となくこんな事を言っているんだろう?
そんな感覚だけで、幽霊と話をした様な気分になる。不思議な気持ちーーでも、イヤな感覚はなかった。
ほんの一瞬瞬きをした瞬間に、そこにいたはずの老人は消えてしまっていた。
ーー一体、彼女は何者だったんだろう。
もはや知る術はない。




