大好きな犬
犬が話する現場を目撃しながら、素早くそれに対応出来るのは、なぜだろう?
母が言う「気持ち悪い」の意味がわからない。
言葉が話せるなら、思いを伝えられるでしょ?私の話し相手にも出来るのにーー。
私はそのまま眠りに着いた。
柴ちゃんは私の胸に顎を乗せて、まるで寄り添うようにして眠っている。
「ーー俺、また捨てられるのかな?」
そんな声が聞こえてくる。
私は目を開けた。
「そんな事ないよ」
私にこの流れを変えるほどの力があるとは思えない。しかし、足掻いて《あがいて》みようと思う。
母に捨てられないように。
柴ちゃんを守れるように。
そうは思うけど、どうしたら母は飼い続ける事を許してくれるだろう。
今の私に何が出来るだろうか?
「柴ちゃん、この家にいたい?」
「もちろん」
「それじゃ、お母さんの前では、話さないで犬みたいに吠えてたり、甘えたりしてーー出来る?」
それが唯一の閃きだった。
「うん。気を付ける」
柴ちゃんが腿の上で言う。
「そしたら明日、お母さんを説得してみよう」
「頼んだ」
柴ちゃんはそう話しているうちに、眠っていった。
その姿はまるで幼い子供の様に見える。
ガタンッ。
窓の外で音がする。
ワンッワンワンワン。
尻尾を下に下げて、警戒心むき出しで柴ちゃんが吠えている。
居間で眠っていた祐司がかけあがる。
「なんだなんだ?」
普段、滅多に吠えない柴ちゃんの吠える声を聞いて不安になったのだろう。
静香も後に続いている。
「あなた、何事?」
遠い昔の事の様に、祐司の名を呼んでいた。不思議な気持ちになる。
「窓の外に不審者がいる」
ーーいやいや、お前もそこから入ろうとしてただろ?
そう突っ込みたいのは山々だが、今はふざけている場合ではないだろう。




