しゃべる犬ーー芝ちゃん
学校を終え、夕夏が家に到着すると同時に、車のエンジン音が聞こえてきた。
母の車だろう。
玄関のカギを開けようと、ドアノブに手をかけた途端。
室内から声が聞こえてくる。
「あいつら、みてらんねーよ」と。
その声は、男のものだろうか?
低くガッシリとした声だ。
車の中から母が降りてくる。
玄関のカギを開けられずにいる私に駆け寄り、
「どうしたの?カギも開けないでぼんやりして??」
「部屋の中から声がするの」
母も扉に耳をくっつける。
「ーー頑固な女だよな、、静香ってやつ。もーいい加減ヨリを戻せばいいのによ」
そんな声がしている。
起こっているのだろう。母は勢い良くそのドアを開けた。
「まったく何のために吠えないでいてやったと思ってるんだよ?」
その声の主を見る。
驚いて、目をパチパチしている。
それもそうだろう。さっきまでの声は犬の柴ちゃんだったのだからーー。
私たちが見ている事に気づいていないのだろうか?
柴ちゃんは喋り続ける。
「静香って言ったか?あの女わかってないよな。自分の気持ちーー」
その表情は、まるで人間の様に表情豊かだ。
「そろそろ気づかせないと後悔するだろうな」
黙っていた母が、急に言葉を発した。
「さっきから言わせて置けばーー」
母は怒っている。