男と母
夕夏が自室に戻り、二人になると男は口を開いた。
「ーーもう一度、俺にチャンスをくれないか?」
「何のチャンス?ーー10年前、彼女が出来たからと別れを持ち出したのは誰だっけ?」
皮肉を込めた言い方をしてみる。
ーー今更。
この言葉が一番シックリくる。
「あの時の事は、本当にすまないと思っている」
「で、別れた訳?」
「あぁ、もうしっかりと別れた」
その目は本気で言っているように見えた。
「ーーあなた、何を言ってるか?分かってるの?」
「あぁ、分かってる、、でもーー」
思わず、目の前に並んでいるウーロン茶の入ったグラスを手に取ると、その中身を男にぶちまけた。
静香は言った。
「ーーふざけんじゃないわよ」
「、、、」
男は静香を見つめる。
「ーー変わってないな。そーゆーとこ」
呟くように男は言って、口許に小さな笑みを浮かべた。
「あなたが別れたからと言って、あなたに付き合う気もないし、、あなたの事は今更私には何の関係もないことーーもう二度とあなたと暮らす事はあり得ない」
全否定の言葉を言い尽くした後で、静香は言った。
「ーーとっとと出ていきな!!二度と来るんじゃないよ」と。
あっさりと言い切った静香は、男の背中を見送ると玄関に塩をまいた。