散歩
夕方になると、少し風がひんやりと冷たくなってくる。
柴ちゃんの散歩は、私が担当する事になった。
「ーーお散歩いこう」
にこやかに、柴ちゃんに声をかける。
柴ちゃんは私の言葉を理解している様で、声をかけた途端に落ち着かないそぶりを見せる。
いつもの事なのに、そんなにも散歩が嬉しいのだろうか?
「ワンッ」
いつものそれとは比べ物にならない元気な声だ。首輪に紐を通す。
「ーー行ってきまーす」
私は慌てて外に飛び出した。
柴ちゃんに連れ出されたと言っても過言ではないかも知れない。
柴ちゃんの紐を短めにして、あまり離れないように固く握った。
けして手放さないようにーー。
15分前後、柴ちゃんを連れて歩いていると、同じような柴犬を連れた人とすれ違う。
「こんばんは」
軽く挨拶をして、その場を通りすぎようとするが、柴ちゃんは動きを止めてしまった。
その場にゆっくりと腰を下ろし、毛繕いを始めてしまう。
こんな時、強引につれていくのも可哀相だ。
「朝晩は少し冷えますね」
ニッコリと笑った。
しょうがなく私は柴犬の飼い主に話しかけた。この間を持たせるために。
「そうですね」
無愛想な男の人だった。
「柴犬、飼い始めてどれくらいですか?」
私は聞く。
「もう6年くらいですかね?」
「可愛いですよね?」
しばらくの間、男は黙っていた。
重い沈黙、、。
「ーーこんな犬、いないほーがいい」
ぼやくように男は呟いた。
どうやら、彼の飼っている柴犬は「ポチ」というのだそうだ。
よくよく見てみると、彼の飼っている犬は、飼い始めて6年も経っているのに、細いままーーむしろ痩せすぎなんじゃないだろうか?
まだ飼い始めたばかりで、よく分からないのも事実だが。