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スキル返してもらいます!!  作者: 味噌煮
第1章
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第5話 勘違い

――マジ終わった。 


 将斗は必死に逃げようとするが、どれだけ身体能力が上がっていたとしても、体の自由が効かないのでは全く意味をなさない。

 逃走不可能。

 絶望的状況に陥っている将斗は、部屋の内部を見て、より絶望した。


 乱雑に積み上げられた本。

 その隙間からこぼれ落ちそうになっている書類には、謎の言語や記号が羅列されている。

 その隣で試験管やフラスコといった実験器具が所狭しとならび、一部は熱され続け、謎の色の煙をあげている。

 小さな蝋燭の明かりで照らされたそれらは、あからさまなくらい奇怪だ。

 

――まさか……なんかの実験台とかにされたりしねぇよな……もしかして拷問とか……? ってバカ考えるなよ! あああヤバい怖い無理無理無理

 

 叫んで逃げ出したくなるが、何もできない。

 将斗はこの状況であまりにも無力だった。


「さて」


 すると目の前で将斗を連れ歩いていた女性が立ち止まる。

 女性は振り返ると、再び値踏みするようにその黄色い目を怪しく光らせた。


「お兄さん。ステータス見せてもらえる?」


 すると将斗の指が勝手に動き空中で二回、円を描いた。

 当然のように薄紫の板――『ステータスウィンドウ』が現れた。


――ああもうこれ完全に自由奪われてるわ


 将斗の腕がそのウィンドウを回すようにはらう。

 ステータスウィンドウはそれに合わせてひっくり返り、女性の方へ向いた。

 

「ふむ……」


 女性は前かがみになってそれを覗き始めた。

 すると雄矢がその女性の隣に立って、一緒に見始めた。

 手の内を覗かれている。そんな危険な状況。


 しかし将斗は別のことに気を取られていた。

 

 ――胸でっか……

 

 胸だった。

 女性が今身に着けている紫のロングドレス。その胸の中央部分が大胆にも見えるようになっていた。

 それが今前かがみになっていることで、さらにそのボリューム強調している。

 将斗は目の前に現れた官能的な『それ』によって、恐怖に支配されていた思考を弾け飛ばす。


――いや、マジで、でっか。モノホン? 大きすぎて重力に負けそう……と、思わせて負けないというそのハリ。うん、百点です……じゃねぇ! バカか。何考えてんだ?!……あ、そうか……思考まで操ってんだな? クソッ! じゃあ仕方ねぇな! 視線がそこに集中するのは仕方ねぇな! 見ます!


 恥も外聞も捨てて目線をそこに集中させる。

 そんな彼の視線に気づいてないのか、女性はステータスウィンドウを見続ける。


「ワタリマサトか。珍しい名前。スキルは……『回収コレクト』? 知らないな……あぁ『超強化』ね……んでもってこっちは、あれ? これ『交換チェンジ』じゃない! ホラ見てこれ! これ魔王軍幹部の……なんだっけ、ナントカって奴が使ってたやつじゃない! なっつかし〜……んまぁ、弱かったけど」


 女性は将斗のスキル画面を見てはしゃぎだした。

 子供の様な快活さを感じさせるその振る舞いからは、さっきまでの大人の雰囲気は感じられない。


 一方、雄矢はほのかに笑みを浮かべつつ、画面を静かに見続けていた。

 そして彼は「うん」とうなずくと女性の方を向き――


「問題なさそうだ。レヴィ、次だ」

「わーってるわよ。お兄さんちょっといい?」

「はっはい?! あれ? 喋れる……」


 将斗は胸を見ていたことがバレると思い咄嗟に返事をした。

 そのおかげで発言の自由が効くことに気づいた。


 将斗が話せる様になったことを確認したのか、


「じゃあお兄さん、この国に来た目的を教えてもらえるかな?」

「あ、いや……その……」


 将斗は言葉を濁らせた。

 喋ることはできるが、言えるわけがなかった。


 将斗の目的は『鈴木雄矢からスキルを奪うこと』。神は『倒せ』と言ったが、正直スキルさえ奪えばいいはず。というわけで将斗には倒す気など微塵もなかった。

 喧嘩すら無縁の人生だった男がいきなり戦えるわけもなく、多少ズルくてもそれでいいだろうと、彼は思っていた。


 だが、倒す気はないにしても、スキルを奪う対象が今そこにいるのだ。「あなたのものを奪いに来ました」なんていう存在、本人が許してくれるはずがない。

 言わないが吉。

 そう思って固く口を閉ざす将斗に対し、レヴィは差し向けていた指を上下に振った。


――そもそも俺知らない人と喋れないしな


「鈴木雄矢のもつ『無限魔力インフィニティ』のスキルを回収しに来ました」


 将斗の目的を言う者がいた。

 聞き覚えのある声だった。


「え……?」


 聞き覚えがあるのは当然だ。他でもなく――


「俺?」


 将斗本人が言っていたからだ。

 口が勝手に動いたのだった。

 

 口が動いたのはレヴィの指が動いた後。

 将斗は何が起きたのか理解した。


――はい、終わったー


 発言も操られているとわかり、再度終わりを確信する。


 何とか動かせる目を動かして、一応あの男の反応を伺う。

 

 雄矢はただ黙っていた。


 だが、将斗の発言の後から彼の表情が変わっている。

 眼を細くし、笑みを解いていた。

 

 その彼がゆっくり口を開く。


「なぜ……回収する? 理由は? 誰の差し金なんだ?」

「この世界を管理する神様からのご命令です。その理由は、そのスキルが他の神の借り物で三日後までに返さないといけないから、だそうです」


 将斗が黙ろうにも、口が勝手に動いてしまう。

 もはや将斗は「なんとか助かろう」などといった希望を捨て、「これ魔法かな、すげぇなぁ。さすが異世界」と現実を捨て、自分に起きている不可思議な現象に感心し始めていた。

 

「へぇぇ……」女性がそう呟き、顎に手を当て何かを考え始めていた。


 雄矢も黙ったままだった。


 その沈黙はほんの少しだけで、女性が話し始める。


「うん……でも私の魔法の前じゃ嘘つけないし。グレン、大丈夫なんじゃない? いいよこの人。すごく良いと思う」

「グレン――?」

「……だな。レヴィ、解いていいぞ」

「はいはい~」


 レヴィと呼ばれた女性が指を横に振ると、将斗の体の力が抜けた。

 

「あぶねっ!?」


 将斗は咄嗟に足に力を入れて踏ん張った。

 手足が自由に動くようになっている。


「手荒な真似をしたね、立てるかい?」


 雄矢が手を差し伸べてくる。

 将斗はその手と彼の顔を交互に見ながら困惑していた。


「どうも……」


 警戒しつつ手を取ってしっかりと立つ。

 そして将斗は直前の彼らの会話に引っ掛かることがあり聞くことにした。


「なぁ、もしかしてあんた……雄矢じゃないのか?」


 目の前の黒髪黒目の男に問いかけた。

 彼は目を丸くした。


 彼はさっきグレン呼ばれた。


 今将斗の恐怖の原因の一つは、目の前に鈴木雄矢がいること。

 だが、彼が雄矢でないのなら、気を張っている必要がないということだ。

 なんなら逃げる必要もなかった。


「僕が? まさか? 僕は……あ、そうか、レヴィ、『変装』を解くのを忘れているぞ」

「あそっか、ごめんごめん。はい」


 レヴィが指を振ると、雄矢と思われていた男の顔がぼやけていき、顔の輪郭やバランスはそのままに、髪の色が燃え上がるような赤に、瞳の色が宝石のアメジストを彷彿とさせる綺麗な紫色に変化した。

 色が変わっただけだが、日本人には見えない。


「『僕の姿が、見る人にとって最も自然で違和感を感じない姿に見えるようになる』魔法をかけてもらっていたんだ。だけど君にとっての違和感のない姿が、あの男と勘違いさせてしまったわけか、謝るよ」

「あ、いや別にそんな……」


 将斗はつい社交辞令のように対応した。

 が、内心「じゃあ逃げた意味なくない?」と、脱力感を覚える。


 グレンと呼ばれる男は、握った手をそのまま上下に振る。


「改めて自己紹介しよう。僕はグレン・ファング。自分で言うのもなんだけど、このファング王国の元王子だ」

「え……はい。よ、よろしく」


 将斗は握手に応じた。 


「はいはーい。私はレヴィ。ただのレヴィね。よろしく。ちなみに最強の魔法使い……あ、私も『元』だったわ」

「は、はい。よろしく」


 状況がよくわかっていないが、彼女も手を差し出してきたので将斗はそちらも握った。

 

「……あ、俺は渡将斗って言います。えっと……転生者です?」


 自分だけ自己紹介しないのも悪いなと思い、将斗は自己紹介をした。

 最後に転生者をつけたのは、二人の言い方に合わせて言った方が良いと思ったからだ。


「あの、どういう状況なんですかこれ?」

「敬語じゃなくてもいいよ。王子だとか今は関係ない」

「は、はぁ」


 グレンが凛としつつも柔らかな声色でそう言った。

 ただでさえわからないこの空気と、急に距離感を詰めてくるグレン達に、将斗はどうしていいかわからず指をポケットの縁でもぞもぞさせた。


 そんな将斗にグレンは顎に手を当てて、片目を閉じて微笑みかけてきた。

 イケメンにしかできないその仕草に、将斗は少し憧れた。


「将斗、君の目的はあの鈴木雄矢からスキルを奪うこと、だったよね?」

「は、はい……じゃなくて、そうだ」

「急で悪いけど、僕たちと協力してくれないか?」

「えぇ……?」


 まだ信用しきっていない将斗に持ちかけられる協力の提案。

 彼は人付き合いが少なすぎて「実はこのくらいの距離感が普通なのか?」と思い始めてしまう。


 そこへさらにレヴィも「お願い!」と言ってきた。


「私たちあいつをぶっ倒そうと思ってるの。目的は一致してるしいいと思わない?」

「俺たちさっき会ったばかりじゃなかったっけ……?」


 しかもさっきまで好き勝手されてたし。という言葉は飲み込んでおいた。


「彼に勝つためには使える手段はすべて使いたいんだ。しかも、現状僕たち二人しかいないから頭数が増えるのはすごく助かる」

「あと『超強化』があるから戦力としてはギリギリ十分って感じだし」

「いやあの、話の展開が早すぎる。着いていけてないんだけど」

「さっきまでのことは謝る。まあ、今の君の気持ちもわからなくはない、だけどこの通りだ」


 グレンが勢いよく頭を下げた。姿勢は綺麗そのもので、下半身と上半身がピッタリ90度になっている。

 将斗は焦った。


「えぇ……あの、ちょっと待って! そんな。頭上げてくださ……くれ。そりゃ一人でやるよりはマシかなとは思うけど、でもなんていうか……ってあの、ちょっ頭あげてって、ち、力つよッ?!」


 将斗は、とりあえずやめてもらおうと肩を掴むが、グレンのその姿勢は『超強化』の力でも上がらないくらい強かった。

 あと慣れてないからとはいえ、タメ口が下手すぎる。

 

「うーん。流石に色々すっ飛ばしすぎね」


 そう言って彼女は「しょうがない」と言って指を振った。

 すると置いてあった近くの机が我々3人の間に滑り込んできて、さらに椅子が後ろに現れた。

 おそらく魔法だ。

 彼女が座るように促してきたので将斗が座ると、グレンも同じく座った。


「さて!」


 彼女はそう言って伸びをした。将斗は強調される彼女の一部分を見ないように目をそらした。

 「ふぅ」と言いつつ元に戻った後、彼女は話し始めた。


「鈴木雄矢についての話。知らないだろうから聞かせるわ。そしたら私たちのことが分かると思う。その流れで協力してくれたら嬉しいかな……なんて」

「下心が出てるぞレヴィ」

「ごめんごめん。じゃ、ちょっと長いけど覚悟して聞いてね。いい?」

「よ、よろしくお願いします」


 蝋燭の火が揺らめく。


 彼らの話は、この世界に生きていた人間だからこそ語ることのできる話で、神様からは語られなかった、転生者が巻き起こした事件の詳細もそこにあった。


「あれは――」


 彼らの話の舞台は、この世界の三年前まで遡る。

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