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スキル返してもらいます!!  作者: 味噌煮
第2章
35/57

第5.5話/ep.1514.5

「ごめんね」


 女性はそう告げてくる。

 手を伸ばして引き留めようとした。

 しかし、体が動かない。


 そうしている間に奥から闇が広がってきた。

 

 女性を飲み込んだ。

 叫ぼうにも声が出ない。


 やがて自分も闇に飲み込まれた。


 黒い世界が広がっている。

 何もなかった。

 しかし、その何もない世界で、何者かが笑う声が聞こえてきた。


 それは次第に大きくなり、何に笑っているのか理解できてきた。

 

 自分のことを笑っている。


 ――やめろ


 笑い声が近づいてくる。


 ――やめろ


 何者かが背後から手を回してきた。

 耳元でその者が囁く。

 

――――――――――。


「……っ黙れ!」


 目に入ったのは緑色に照らされた岩だらけの天井。

 

「…………クソ」


 白峰竜次は体を起こして、偽物の右腕で額を押さえた。

 軽い頭痛がしている。

 金属に近い素材でできたこの義手は、洞窟の冷気に冷やされたおかげで、頭を冷やすのにちょうど良いツールになっている。

 しかし目覚めの悪さを取り払ってくれるほどのものではなかった。

 

「何が………だ」


 歯を食いしばって、『あの存在』に怒りを込めて呟く。

 

「黙って見てろ。死人が」


 眼帯のない右目で真っ直ぐ前を睨みつける。


「俺は、絶対にてめえらの思い通りには――」


――そこまで言ったその時、枝が折れる音がした。


 洞窟内に枝はない。異変だと察して、竜次はすぐに振り向いた。



「あっ、わ、悪い。カフェインで寝れんくて……」



 将斗が中腰で、申し訳なさそうに立っていた。

 焚き火に使う予定で置いてあった枝を踏んだのだろう。


「あの……あれだ。違うからな。聞いてないから。うん、聞いてない。俺もう寝るんで、気にせず続けていいから」


 そう言ってテントに入って行った。

 どういう意味だろうか。


「…………………」


 数秒考えて、竜次は何となくわかってしまった。

 

 眼帯。コート。あらゆる部位にまかれた包帯。

 自分の格好は『そう言う年頃の男子』が憧れるような格好に酷似していることを知っている。

 だが理由あってこの姿をしているのだから仕方がない。

 というよりこの世界ではむしろこの格好が普通だ。


 だが将斗は違う。

 竜次と同じ前の世界を知っている。

 今、竜次はまさに『その類の人』の格好をしている者なのだ。

 

 加えて竜次はさっきまでその義手で顔を抑えて、割と大きめな声で独り言を呟いていた。

 『そういう風』に、彼の目に映った可能性が高い。

 「聞いてない」と言ったのはおそらく彼なりのフォロー。


「………ハァァ」


 今までにないくらい特大のため息を吐いて、竜次は再び横になった。

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