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スキル返してもらいます!!  作者: 味噌煮
第1章
29/57

第28話 白い部屋で/EX.01 

 一面真っ白い部屋。

 その真ん中に置かれた椅子とテーブル。


 将斗はそこに腰掛け、両肘をついて顔の前で手を組んでいた。


「あの将斗さん……どうして黙っていらっしゃるんですか?」


 物々しい雰囲気を出す将斗に神様は恐る恐る尋ねてきた。

 将斗は少しため息をついてから言った。


「神様。少し聞きたいことがあります」

「な、なんでしょう?」

「俺の戦い見てましたか?」

「え?」


 将斗は神が自分を迎えにきた時の言動から『神が戦いの結果を知らない』ことを察していた。

 要するに彼女は無理矢理将斗を異世界に送った挙句、放置していた事になる。

 さらに実はもう一日伸ばせるという特典を持ってきて気が利くところ見せようとしていたのが、なんとも厚かましい。


 だが流石にこの考えはあくまで将斗の推測であり、間違っていて欲しいと思い聞いたのだ。


「え?ってなんですか? まさかあんな強引にお願いしといて俺に任せっきりってわけではないですよね? 自分の命もかかっているというのに」

「そ、そそれはもちろん見ていましたとも」


 明後日の方を向いてそう答えた神様。

 この反応は肯定として捉える以外ないだろう。

 

「俺がグレンのことを雄矢と間違えて逃げ回ったところは見てましたか?」

「も、もちろん」

「俺が牢屋に入ってたところは?」

「見てましたよ当然じゃないですか」

「俺が火だるまになりながら雄矢を追いかけ回したのは?」

「当然――」


 この聞き方だと見てない証明ができない。

 埒が明かないと別の質問で暴こうと考え始めたところで


「なんて言うと思いましたか? 引っかかりませんよその手は! あるわけないことを言って、私にそれを見たと言わせようとしたんでしょうけど、残っ念でしたね! なんたって私はちゃーんと見てたんですからね。そのくらいの嘘――」

「やっぱ見てねぇじゃねぇか!!」

「ええっ?! 本当だったんですか?!」


 見てない上に誤魔化そうとしたものだから将斗は拳が出そうになったがグッと堪えた。

 そして、目を細めてながら身を乗り出して詰め寄った。


「見てなかったんですね、今の反応は。よくもまあそんなことができましたね。グレン達のための()()()とはいえ、俺がどんだけあなたのお願いを果たそうと頑張ったことか」

「なっ?! もしかして私のお願いをついでって言いましたか?! いつの間にそんな偉くなったんですか?! いいんですか? そんな口の聞き方。私はいつでもあなたを簡単に――」


 そう言いながら手を向けてくる神様。

 何をするかは将斗にもわかった。将斗を消そうとしているのだ。

 しかし将斗は逆にその手首をつかんで自分の方へ一気に引き寄せた。


「えっ?!」

「消すんですよね。どうぞ、どうぞご自由に」

「なっ?! いいんですか? 本当にやりますよ?! 今更謝ったって――」

「どうぞって言いましたよね。早くやってくださいよ。こっちが何回死んだと思ってるんですか。今更、あんな痛くもないやり方じゃビビったりしませんよ」

「本当に……あの……う……」


 将斗は真っ直ぐ神様の目を見て言った。それのせいか神様は何も言い返せないようだった。

 冷や汗までかいて、神の威厳はどこへやら。


「というより、消すなんてできないんじゃないんですか?」

「っ……な、何を言って」

「いや、消すことは可能なんですよね。理由があって消せないが正解じゃないですか? ねぇ神様?」

「ななな何を言って――」

「自分で言ってたじゃないですか、俺の代わりを用意するのはほぼ無理って」

「あっ……」


 一気に顔が青白くなる神様。

 その反応を見てニヤリと笑った将斗は、神様の耳元でゆっくりと言ってやる。


「これってもしかして……俺がいなくなって困るのは神様の方ではないですか?」


 神様はその言葉に肩を震わせ始める。


「す……」

「す?」

「……すみませんでした……!」


 神様は力が抜けたように椅子に崩れ落ち、土下座を敢行した。

 威厳のなさに腰が抜けかける。


「おわあああああ?! そこまでしてほしいわけじゃ」

「神々の間で私がスキルを借りまくってるって噂が立ってから、スキルを早く返せって言われるようになって……それでだんだんイライラしてしまって……八つ当たりしたくなっちゃって……」


 項垂れる神様。

 将斗はその神様の話を黙って聞いていた。

 その目はというと、もうこれ以上ないくらいに呆れ返った上での失望の眼差しだった。


「それだけじゃなくて。私、力が元々少ないせいでバカにされてて。でも、私も神なんだぞって実感が欲しくて、それで将斗さんにあんなことを……」

「うわ……」


 あまりにもひどい理由に将斗はつい声が出た。

 さらに、空中モニターと椅子とテーブルをわざわざ出したのは神様アピールがしたかったためのものだと判明し、将斗はため息をついた。


「すみません、謝ります。もうしないって誓います。だからどうか、これからも私に力を貸してください!」


 神様がそう言って深く頭を下げる。

 震えているあたり、それほど将斗の存在は必要らしい。

 演技にしろ演技じゃないにしろ、将斗の答えは決まっていた。


「いや別に力は貸すつもりですけど」

「え……」


 すると神様は目を見開いて将斗を見た。 


「機嫌悪くなったからもう力は貸さないと言われるのかと」

「そう言いたいくらいですけど、この状況は俺に合ってるので……」

「? それはどういう……」

「なんていうか――」


 将斗は頬を掻きながら言う


「今回、目標を達成した時すごく嬉しくて。こんな気持ち知らなかったっていうか。もっと味わいたいっていうかそんな思いになっちゃって」


 自分の思いを正直に言うのはまだ慣れないから、顔が熱くなっていく。


「でも今更、元の世界に戻るなんてできないだろうし、そもそも俺一人じゃまだ目標とか決められないと思うんですよ。だから、俺としてはもう少しの間、神様のお願いに甘えさせて欲しいんですよ」


 将斗は今回の戦いで達成感を得たことで、努力することと、挑戦することに意味を見出すことはできた。

 しかしまだ、自分の目標を自分で決められる自信がない。

 今回は神様とグレンの目標が一致していたから将斗は行動できた。

 

 まだ将斗は人が敷いてくれたレールの上を走ることしかできないのだ。

 だから将斗は今のところは神様に甘えることにした。『お願い』を『目標』とするのだ。

 彼女が利用しようと企むのだから逆にこちらから利用してやろうという算段。ただし結果的にはWin–Winの関係ということになるため悪くない。

 

「そうですか、よかった……」


 安心したのか胸を撫で下ろす神様。


「でも今回みたいに『急に期限は三日です』みたいなことしたら少し考えますけどね。もうちょっと人間目線で考えてもらえるとありがたいというか」

「わかりました……気をつけます……」


 わかってもらえたようでなによりだ。と将斗は安心して、伸びをした。

 

 将斗の目的は待遇の改善だった。

 これからいくつかの世界を回るとして、毎回神様の無理な要求を受けていては精神的に持たないと思いこの話し合いにうって出たのだ。

 

 伸びをした体からバキバキと音がする。最後の夜はちゃんとした場所で寝れたが、流石に疲れが溜まっているようだ。


 とりあえず休憩でもさせてもらおう。そうお願いしようとした将斗に対して、丁度そのタイミングで神様が口を開く


「ところで……返済期限が二日後のスキルを取りに行ってもらいたいんですけど」

「話聞いてたか?」



***********************************



「――それではまた半日後くらいに」


 そう言って神は部屋から出た。

 部屋の外の白い道を歩きはじめる。

 その周りは光が一切ない黒い色で埋め尽くされている。横も上も全て黒色。


「なんかもはや神として見られてない気がするな……」


 神は歩きながらそう呟く。

 先ほど渡将斗に疲れが溜まっているため休憩させろ。させてくれなきゃてこでも動かないと抗議された神は仕方なくベッドを出してあげたのだった。

 

「はぁ……もう少し力があればこんな回りくどいやり方しなくて済むのに……私のバカ……」


 転生者の送りすぎで神は力を無くしていた。

 別の原因もあるが大部分はそれが占めている。

 

 しばらく歩いていると前から誰かが歩いてきた。

 目隠しをつけた長身の男性。

 神はその男に気づくと指を振ってステータスウィンドウを表示した。


「すみません」


 神に呼び止められ男は足を止めた。


「なんでしょう?」

「この『スキル』の持ち主の方はどの部屋でしたっけ?」

「んん?」


 神がスキル画面の『無限魔力インフィニティ』を指差して男に尋ねた。

 男は少し考えてから思い出したようで、


「ああ、『この方』か。それでしたらこの道ではなく3つ下の道でないと着きませんよ。えっと、あそこです」


 男が背後の斜め下を指差した。

 そこには黒い空間が広がっているだけで何も見えない。

 神は少しそこに注目すると

 

「やっぱりそこに移動してたか。ありがとうございます。助かりました」

「いいえ。では」


 男はそう言うと立ち去って行った。


「はぁ、面倒だなぁ。いずれは将斗さん本人に返しに行ってもらいたいんだけど……」


 神はそう呟いて空を見上げた。


「この情報量は無理だよなぁ」


 そこには黒い空間が広がっているだけだった。



***********************************



「ハハ、そうですねぇまた機会があれば是非。失礼しました………………ふぅ、ひとまず『無限魔力』《インフィニティ》の返却は完了と」


 神はスキルの返却が終わると、また白い道の上を歩き出した。

 相変わらず周りは黒色で覆い尽くされている。


「延長してくれって言われると思ってた、って言われたけど。私もそうするつもりだったんだよなぁ」


 神は将斗が三日で役目を果たすとは思っていなかった。

 もう一日延長してギリギリ。本当にギリギリクリアできるかできないか、という見立てだった。

 しかし将斗は三日以内に終わらせてみせた。

 神は腕を組んで唸りつつ、


「力使っちゃうけど……見てあげようかな」


 神は指を振って、将斗が空中モニターと呼んでいるあの物体を取り出した。

 そこに映し出されたのは将斗。画角は斜め上から彼を見下ろす形だ。

 彼が立っているのは草原の上。

 これは28番目の世界に彼が初めて降り立った時の風景だ。 


「ふふ、いい歳して何してるんだか……」


 将斗が草原を走り回る姿が映っている。

 この映像は早回しになっていて、普通の人間であれば何が写っているのか、何を言っているのかさえわからないはずだ。

 しかし、神は平気な顔をしてそれを見ながら歩いた。


 ――――数分後

 神は映像を閉じた。

 将斗の異世界での三日間を、早回しにして数分で見終えたのだ。


 その表情は険しいものだった。


「彼には何もない。それは間違っていない」


 神は神妙な面持ちで独り言を零したまま歩く。


「ちゃんと調べたはず。見落としはない。今まで外部からの干渉はないし、両親に特別な何かはないし、()()()()()()()()()()。だけどこの結果はどうなの……」


 顎に手を当て考えこむ。


「二日目のあの戦い。私の計算ならグレン・ファング、レヴィ、クリスの3名は絶対死ぬ。死ぬ順番によっては隕石で国民が巻き添えになるから、最低でも死者は18729人に跳ね上がる」


 神は足を止めた。


「神の計算は未来に等しい。力がない私でもその定義が狂うことはない。でも人間の行動で未来が変わることはある。神だって万能じゃないもの……だとしても死者を0人まで抑え込むなんてありえない」


 もう一度空中モニターを取り出す。


「将斗さんが頑張ったのはわかった。すごく頑張ってくれていた。頑張ってこの結果は異常よ」


 彼女はモニターを操作しとある場面を映す。

 それは、必死の形相で隕石を切るグレンの姿。


「……この、王子に宿った『おう』のスキル。自分を王と認める国民からのみ魔力を分けて貰うことのできるスキル、ね……これは一体どこから来たの?」


 神は意味もなくモニターを閉じて、開いてを繰り返し、考え続ける。


「その世界に存在するスキルは増えることも減ることもない。誰かが死んで、また次の誰かに渡る。うん、そのはず。その前提は覆ったことはない。でも、このスキルはあの世界に存在しなかった。だから確実に、新しく生まれている」


 神の脳裏にあの男が――渡将斗が浮かぶ。


「……将斗さんによるもの……? いやまさか、そんなはずない。転生者に転生者をぶつけること自体、初の試みだもの、何か起こってもおかしくない」


 神は首を振って考えを取り消す。


「でも……次からは見といたほうがいいかもしれない」


 そう言うと神はモニターを消し歩き出す。

 疑念は晴れず、複雑な心持ちのまま


「スキルを作れる人間がいるはずがない。だから、上への報告はしない」


 そう一言呟いて彼のいる部屋へと帰る。

 

 ――はずだったが


「あ、次のスキルの返済期限伸ばしてもらわないと……忘れてたぁ……うぅ、めんどくさい!」


 そう言って、慌てて元来た道を引き返すのだった。



***********************************



 薄暗い牢獄。

 静けさの中に月明かりが差し込でいる。

 どこかで落ちた水の音が響くほどに静かだ。


 鉄格子が並ぶ中、一つの部屋の鉄格子だけあらゆる方向にひしゃげている。

 その向かいの部屋に男が倒れている。小太りの男だ。


 その牢屋の前に立っている男がいた。

 ソフトハットを被り、黒くボロい布切れを纏っている。

 端からはみ出た灰色の髪はボサボサでまとまっていない。

 薄汚さをどこか感じさせる彼は倒れた男を、ずっと見続けていた。


 ファング王城の牢獄は、長い廊下があり、片側は行き止まりで片側に出入り口がある。

 その出入り口から女性が歩いてくる。


 男は女性の方を見ないまま話し出した。


「久しいな。元気か?」

「……どういうつもり?」

「質問したのはこっちだぜ?」


 首だけ女性の方に向けて男はそう言う。

 その目は赤く、濁っている。


 女性が手を向けると、男は「おっと」と言って両手を上げ後ずさる。


「歓迎してねぇみたいだな」

「いつもだったら、少しはしてたわ。だけど、こいつにあんたが関わってるって言うんなら話は別よ」


 雲に隠れていた月が顔を出したのか、牢屋の小窓から光が漏れてきて女性の顔が露わになる。

 その黄色の瞳を持つ彼女は他でもなく――魔法使いレヴィだ。

 

「関わっちゃいるが――」

「やっぱりね。こいつのせいで…………え?」


 レヴィは目を見開いた。

 視線をむけた先そこに倒れているのは、鈴木雄矢だ。


 彼は喉を赤く染め上げ、泡を吹いていた。

 その顔は引き攣り、恐怖の色に染まっている。

 ――そして息をしていなかった。

 

「死んでる……?」

 

 魔力の流れを見ることができる彼女は、触れずとも生死の判別ができる。

 彼は絶命していた。

 

「ああ、俺が殺した」

「そんなっ。なんで?! この子はこれから償いを……」

「こいつは元からこんな奴だ、無駄に生かしても更生なんかしねぇよ」

「……」


 レヴィは黙っていた。その目は後悔とほんの少しの安堵があった。

 しかしすぐに、安堵してしまった自分に対して舌打ちをした。

 それを見て男は少し黙ってから、おもむろに切り出した


「……ところで、こいつの記憶にほんの少し残ってた、あのよくわからねぇ兄ちゃんは誰だ? こいつ名前すら覚えてなくてな。どうやらお前と一緒に戦ってたみたいだが、何か知って――」


 爆炎が男の顔をかすめて過ぎ去った。

 一瞬だけ焦がされた髪が黒みを帯びた。

 

 その爆炎はレヴィの手から放たれたものだった。


「あの子のことは話さない。絶対に」


 レヴィのその目は真っ直ぐ男を捉えている。

 男は肩をすくめて笑うと 


「どうしてもか?」

「どうしてもよ。恩人だもの。どうしても……どうしても知りたいなら、自分で調べて」

「……そうか」


 男は入り口のない方へ歩き出した。

 月が差し込まない暗い廊下の奥へと。

 その背中にレヴィが問いかける。


「もう行くの?」

「そのつもりだが。なんだ? 用でもあったか?」


 男が振り返る。その口調はどこか優しい。

 レヴィは首を振ると


「ない。みんなに元気だったって伝えといて」

「一文字五万ルアな」

「馬鹿じゃないの」


 その言葉を聞いて男は口角をあげると、今一度廊下の奥へ歩き出した。

 床を踏む音が小さくなっていき、やがて消えた。

 

 レヴィは倒れている雄矢を見て、それから何もない天井を見上げた。


「……ごめん、将斗」


 レヴィの呟きは静けさに飲まれ、消えた。

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