表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話

このゲームは、ちょっと言いづらかったり、気恥ずかしいことを言ったりするのにも使えて、喧嘩してしまった後も、「ごめんね」と放送準備室の中で叫んで、それを当てたりすると仲直りも上手くいったりした。


そして、中でも印象的だったのは、2月14日の出来事だった。その日の放課後も、僕たちは放送室に足を運んだ。自然な流れで「何言ってるか当てるゲーム」をやることになって、愛莉が放送準備室の中に入り、僕は放送準備室の扉に耳を押し当てた。愛莉の声はいつもより遥かに小さくて、何を言っているか当てるどころか、声を出しているかどうかさえ分からないくらいだった。


「聞こえないよ」


我慢できなくなって、僕は扉を開けて放送準備室の中に踏み込んだ。愛莉は放送準備室の真ん中で、なぜだか寂しそうな表情で立っている。


「今日、何の日か知ってる?」


愛莉は僕の文句に対して直接応えることなく、埃っぽい空気の中でそう囁いた。グレーのニットにチェック柄のショートパンツ、そしてタイツを穿いている。ちょっと離れた距離から正面に向かい合った愛莉の姿を見るのはずいぶん久しぶりに感じられた。


「バレンタインデー」


僕はなるべく落ち着き払った声で、なるべく感情を込めずにそう言った。今日は何の日、と問われて、バレンタインデーだ、と気づいて、もしかしてチョコレートをくれるの、という感情がよぎって、でも、そんな感情を表に出すのはどうしても格好悪いことのように思えた。


「うん。ちょっと待ってて」


愛莉は突然、とびきりの笑顔をつくってそう言うと、僕の横を通って放送台まで小走りに駆けて行った。帰りはゆったりとした足取りで戻ってきて、手にはラッピングされたピンク色の小さな箱を持っている。


「あげる」


愛莉は箱を両手で差し出してきて、僕もそれを両手で受け取った。


「ありがとう」


という言葉は意図せず掠れた声になってしまって、僕はそこから、どう動いていいか分からずに茫然と立ち尽くしていた。


「家で食べてね。じゃあ、続きやろ」


沈黙を破ったのは愛莉で、その溌溂とした表情も楽しそうな声もいつも通りに戻っていた。僕はふわふわした気持ちを抱えたまま、表層だけはいつもの元気な自分を取り繕って愛莉と過ごして、それから、下校時刻になると放課後の放送をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ