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第3話

「分かんないよ。でもバレたんじゃない? だって、声、全然違うし」

「そうかな?」

「そうだよ。でも、誰も気にしないんじゃない?」


軽い気持ちで僕はそう言って、でもそんなことはなかった。

僕たちが放送室を出ようとしたちょうどそのとき、放送室のドアが向こう側から開かれた。


「いま、二人で放送してたの?」


僕のクラスの担任でもなく、愛莉のクラスの担任でもない、全校集会でしか姿を見かけたことのない中年女性教師が僕たちの目の前に現れ、眉をひそめてそう尋ねてきた。


「そうです」


先生が硬い表情をしていたので、僕も調子を合わせ、神妙な声色でそう返事をする。


「みんなが聞く放送なんだから、真面目にやって」

「はい。すみませんでした」

「ごめんなさい」


僕たちが素直に謝ったのを見ると、女性教師はようやく表情を緩めて、「気をつけて帰るのよ」と言いながら踵を返した。


「怒られた」


僕はしょんぼりした顔で愛莉に振り向く。


「楽しかった」


でも、愛莉は笑っていた。そして、


「再来週も一緒にゲームしよ!」


と元気に提案してくれた。来週は六年生の先輩が朝夕の放送の担当で、その次の週は愛莉が朝夕の放送を担当するという巡りになっている。


帰り道、僕たち怒られたことなどすっかり忘れて他愛もない話をしていた。放送室にいればスマホ使い放題だよな、なんて僕が言って、穴場だよね、と愛莉も興奮を隠さない。持込禁止のスマートフォンをこっそり持ち込んでいる生徒は多い。時々、持ち込みがバレて怒られている姿も見かける。放送室というのはその意味でも優れた秘密基地だった。


それから、僕たちは放送室で何十回も二人きりの時間を過ごした。三週間に二回、僕か愛莉が朝夕の放送を担当するとき、僕と愛莉は朝と放課後に放送室へと集合した。そのうちスマートフォンのゲームには飽きたけれど、二人で過ごす時間に飽きはなく、お喋りをしたり、トランプをしたり、携帯ゲーム機を持ち込んだり、ユーチューブを一緒に見たり、オリジナルゲームを開発して遊んだりした。


オリジナルゲーム、なんていっても大したものじゃない。僕たちのあいだで一番長く続いたのは、「何言ってるか当てるゲーム」だった。放送室の中には、放送準備室という部屋があって、行事で使う放送機材がしまってある、放送準備室に入るための扉は放送室の壁と同じでたくさんの穴があいた防音仕様になっているから、放送準備室内の声はとても聞きづらい。


だから、扉を隔てて立ち、一人が放送準備室の中で何かを叫び、もう一人が扉に耳を押し当ててそれを聞き、何を言ったか当てるというゲームが僕と愛莉によって開発された。一発で当てられることもあれば、何度聞いたって当てられないこともある。どうしても分からなかったら扉を開けてヒントを貰う。そうすると、だんだんクイズみたいになってきたりもする。

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