第11話
「放送委員会、入れてよ」
「ほんとに言ってる?」
「本当の本当」
「ありがとう。ちょっと待ってて、入部届探すから」
愛莉は立ち上がり、僕に背中を向けて収納の引き出しを手当たり次第に開け始めた。あれ、どこだ、なんて呟きながら探していて、なかなか見つかる気配がない。
「須藤さん」
僕は意を決して立ち上がり、愛莉の背中に声をかける。
「なに?」
愛莉は腰を捻って振り向いた。
「あのとき、須藤さんのことを友達以上だと思ってたんだと思う。もう一回、須藤さんと友達以上になりたい」
愛莉はそのままの態勢で目を見開き、絶句したまま動けなくなっている。
「とりあえず、LINE教えてよ」
僕はそう言いながら、ポケットからスマートフォンを取り出して愛莉に近づく。お互いにスマートフォンを持っていたのに、お互いのLINEさえ知らなかった。どちらからも言い出さないうちに、どちらからも言い出さない雰囲気になってしまっていた。
愛莉は茫然とした表情のまま、こくりと頷いて自分のスマートフォンをブレザーのポケットから取り出した。お互いに近づいて、LINEでも「友達」になって、そして顔を上げると、愛莉の顔がすぐ近くにあった。小学校の放送室で、椅子を寄せ合っていたあの頃のような距離に愛莉の顔がある。
「放送って、いつやるの?」
「聞いてないの!? 昼休みに毎日やってるじゃん」
僕の質問に対して、愛莉は色をなして語気を強めた。
「そういえば聞こえてたかも。じゃあ、担当の曜日は……」
そこまで言って、僕は自分で気づいた。いま、放送委員は二人しかいない。
そして、先に口を開いたのは愛莉だった。
「二人で毎日やろうよ。二人で毎日、一緒にやりたい」
愛莉にそう言われて、僕はつい笑ってしまった。愛莉も微笑んで、二人分のくすくす笑いが放送室に小さく響く。
次の日から、僕と愛莉による昼休みの放送が始まって、一年生が入ってきた後も、週に二回は僕と愛莉だけの日を設定して放送を続けた。
その過程でも色々あったし、中学校を卒業したあとも色々あった。放送部が盛んで、全国大会にも出ているような高校に二人で入学して、僕たちはいま、規模の大きな放送部に所属している。
そんな幸せな日々の、この長くて気恥ずかしい前日譚を、僕は時々思い出して、そのたびに少しばかり身悶えしている。